詩 


2011年06月までの分は→ 詩NO2へ
2009年12月までの分は→ 詩NO1へ
 日記的に書いたもので、推敲が十分ではありません。お見苦しい点は、御容赦願います。

 掃除の過程で、15歳頃から35歳時に書いたと思われる作品が出てきました。
 2010.05.22から、当分の間、順不同で掲載いたします。



新作(2018.07.01)

子 犬
                                  
甘ったれのマンタという子犬
懐にくるむように育てた飼い主の元から離され もらわれてきた

もらわれてきたのは泥棒に入られたばかりの
若いサラリーマンの家 小さな分譲地
吹きさらしのベランダに初めてクサリで繋がれ 夜を迎えた
マンタは悲し気な鳴き声を間なしにあげ
丸く縮んで震えている

カーテンの内からサラリーマンと妻と
小学生の男の子と三歳の男の子が かわるがわる
何度もカーテンを透かしベランダを見やる
もう十時過ぎだよ いつまでも鳴き止まないね
キューンキュンと鳴いてるよ
腹減ったのかな 淋しいのかねえ
可愛がられ過ぎて育ったんだよ 怖いのかな
牛乳にもご飯にも見向きもしないよ
こんな夜更けにいつまでも鳴き止まないと 近所に迷惑だよな

マンタは拗ねた目を小学生の男の子と
三歳の男の子の方に向けキューンキューンと訴える
可哀想だけどねえ 寒そうだし
近所にも悪いしねえ
十時半になるとサラリーマンはラップの芯を手にベランダに出て
芯でマンタの頭を小突く仕草をした
マンタの本能が 恐らく初めて驚愕したのであろう
いきなり鎖を揺らし空を蹴って 小屋の屋根に跳び乗った
首をすくめ 悲しげにサラリーマンを見上げる

これでいいのかな いいのかなあ
小学生の男の子と三歳の男の子
かんべんだよなとサラリーマンと妻
マンタは体中をブルンブルン震わせながら
ラップの芯を目を丸くして見やっている
鳴くことなどは どこかに置いて



或るふるさと考

             
僕にはふるさとがない
ゆかしいものの懐に抱かれ 
ゆらゆらと 時の揺れに憩うなどという
ふるさとがない

かたちの上では ないではないが
叱責の音声 
隙間風の吹き抜ける屋根裏
仕置きのやいと 
夕暮れの雨風に曝され続けるお堂の狛犬

なに恨むでもなく拗ねるでもない
少しでも 
広い場所へ動こうとする気配を見せれば
すかさず狙い撃ちに遭い
泣くこともはばかられ
泣く声の色さえ計られ
この家の者は
そんな声では泣かないものだと詰られ
第一泣くなんぞという恥ずかしいことが
あってたまるものかと打擲され

そこには 日向からの声は届かず
一歩先さえ見えることがあってはならず
目の高さのところには遮蔽が施され
新聞も届かず 電波も遮られ
鎖にこそ繋がれてはいないが 
目に見えない鋲が いたるところに撒かれ

逃げおおせていたつもりであるが 
魑魅魍魎たちが 今も追いかけてくる
手を伸ばし 足を探り 蜘蛛たちが糸を吐き
空を席巻するほどに網を広げ

僕は懸命に まつわりつこうとする網を払い
光の方へ 光の方へと駆け上がり
駆けて 駆けて 駆けて 駆けて
駆け抜けて 息絶え絶えに振り返れば
目を覆うばかりの 爬虫類に見紛う魑魅魍魎どもが
しっかりと 
しっかり べたべた貼りついている



生まれたときから

魂の広場からひょいと掬い取られ
肉塊の奥底に投げ込まれ 断末魔の叫び声をあげ
恐ろしく重苦しい鎧様の肉をまとい
這い出た光景のあまりの異様さに竦んだとき
何かが絶対に 終わっていくのだという予兆を見たのだった
肉の身の掟として 反吐の出そうな気体を吸わされ
血生臭い液体を飲まされ

それまで真剣に学び語り合ってきた
未来への幕が突然遮断され 降ろされてしまった

死の世界に暮らすことがあるのだという
そう かつてそんな学びもした筈だった−  
死の世界に生まれ 死の世界で生きるという
絶対矛盾的自己同一の 地獄絵図そのままの畏怖

どうあがいても どう泣き叫んでも
肉の身を持つものたちの都合に合わせ
都合のよいように仕立てられ

彼等にもかつて魂を持った時期というものが
あった筈であるのに−   

 食わねばならぬ
 勝たねばならぬ
 大義のための暴虐礼賛
 目には目をだ!
 
彼等にはかつて魂としての学びはなかったのか
それとも はや消え失せてしまったのか−  

奪わねばならぬ
 増やさねばならぬ
 大義のための殺戮礼賛
 歯には歯をだ!

肉の衣を纏った上は 反吐の出そうな気体を吸わされ続け
血生臭い液体を何杯も飲まされていく度に 
愚鈍な記憶がさらに薄められ そのスピードは加速度を増し
生まれ出たときの光景の あまりの異様さでさえも
まるで痕跡を留めぬよう 縫い込められ−  


新作(2018.01.01)

君には似合わない                

三日が過ぎたというのに 君の
姿も表情も変わらない
若い納棺師の指が頬に紅をさし 髪を洗い
写真の君の ヘアースタイルを見つめながら
手櫛を入れる でも
君の自慢の前髪のスタイルには
ちっとも近付かない 

もっともっと 
前髪は無造作に下ろして と私
乾いてくると 素敵になる筈ですよ
納棺師の声は静か

君が夢中になりそうな 
納棺師の 細い首筋
豊かな胸 締まった口元の結び
向日葵みたいな 
フェロモンがこぼれ出る  

山崎まさよしの
僕はここにいる が流れる
二人で すり切れるほど何度も聴いたし 
コンサートにも駆け付けた

僕はここにいる って
君はなんで どうしてここにいるわけ
先々週も 先週も 何度もなんども
君は 神楽坂を 新宿を 一緒してくれたし
約束だったじゃない
明日も明後日も いつも いつまでも 


納棺師の指が かじかんだ君の指をとり
合掌 
だって 
そんなの君には似合わない
似合うわけないよ 
冗談だよね
なのに 一ミリだって 抗おうとせず
納棺師のなすがままに
ドライアイスで凍った君の指を
赤ん坊の指みたいに行儀よく合わせる
なんて奇妙なこと 似合うわけないでしょう 

君の指は 私だけのものだったじゃない
初詣のとき一緒に本殿に向かって祈り
そのあとで私の指を たっぷり温めてくれた

せつなくて むなしくて つぶされそうさ
 わかるかい 僕はここにいる(※)

山崎まさよしの歌
アパートで よく歌ってくれた
君のギターはいつだって下手くそだし
音程はあやしくなるけれど
儚げな表情がたまらなかった

納棺師の目が微笑み
マスクの下の唇が ナムアミダブツ
と呟いた
ナムアミダブツだって なによ
なんのイイガカリなの
怒らないの
放ってていいの マジで
なにか言ってよ 言うのよ 叫んでよ 叫ぶのよ

狭い箱の中に
縮こまり
ふやけた顔で なにニヤついてるの
納棺師の指に誘われ
いったい どこで なにをやらかそうというの
いいこと いつだって
私だけのものなのよ 君のその指は

前髪の方は もっともっと長めに
思い切り 無造作に下ろし
もっともっと 自然になびかせ
臆病なくせ 激しい風の真中に立つ君に そう
我が儘で乱暴で格好つけで
壊れそうなほどに優しかった 
本当の君に 今すぐに戻るのよ

 (※は 山崎まさよし作詞「僕はここにいる」より)


新作(2017.07.01)

三半規管

とまどいがちに鳴った
職場からの電話

決算終了
しつこい風邪は治った
仕事は任されるようになったし
本腰入れて頑張るよ
最近
すごくオーラの綺麗な人を
見付けたんだ

おどけていた子供が

仕事に出てこないんです
無断欠勤などしたことは
一度もありません
アパートの鍵を開けるには
身内の方から
大家への連絡が必要なのです

途端に
ぼくの頭の芯の蝸牛が
角を出し足を伸ばし
天井を掴むかに
立ち上がろうとした

前後左右に
たたらを踏み
沈降や上昇の
定まらない動きを繰り返す

ねばならぬのなら
せめて
少しだけ後に
這い出してはくれないか
とんぼ返りなど
いまのいまは
よしてはくれないか

くすぶり始めた
煙霧に包み込まれ
夢を見ている加減のぼくの
三半規管よ
お前はどうして
そんなにしゃりむり
走り出ようとするのか

ぼくはもう
老人と呼ばれているし
高熱の間ぐらい
無闇に這い出すのは
待ってはくれないか

ともかく
いまのぼくは
子供のところへ
東京行きの終便のチケットを
毟り取ってでも
辿り着かねばならないのだよ

 (2017.2.26 二男没 38歳 )


行方もしれず

北風が吹いている
闇のうちに吹いている
街灯の下にも吹いている

北風が吹いている
小さな明かりの点いた
屋根の上に吹いている
明かりの灯らない屋根の
上にも吹いている

北風が吹いている
公園の埃を巻き上げ吹いている
ベンチの足元に吹いている
トイレの裏にも吹いている

北風が吹いている
空の上にも吹いている

休みを返上し決算を終え
しつこかった風邪も治り
明日も明後日も週末も
数えきれない楽しみの
約束をしていた青年の

最後のライン交信は
二十三時三十三分
フレンチも
イタリアンも寿司も
中華もタイ料理もOKですよ(笑)

二ヶ月前に出会ったばかりの
オーラの綺麗な
人に向けたメッセージ

翌朝
アパートの一室で青年は
眠りから一度も覚めることがなかった
のだ

ワッハッハッハ
と含羞を溜めながらの
象嵌されたことばも
交信に刻まれているというのに

六時間足らずの眠りの間に
降りるべき駅を乗り過ごしたのだ
とでもいうのだろうか

とにもかくにも
眠りから覚めることが
なかったということの意味が
分からない
なんの鵞鳥だというのだろう
なんのキリギリスだというの
だろう

北風が吹いている
闇のうちにも空の上にも吹いている
アパートの周りを
行方もしれずびょうびょうと
いまあらねばならぬもののように
空洞(うつろ)空洞(うつろ)に猛り
吹き抜けている



新作(2017.01.01)

白い蝶

生まれるときのことを知っている
俺は、魂魄となって降りてきた
行く先はきっちり決まっていた
選ぶも、選ばぬもない
もう少しはましな器量持ちの方が良い
などと言う間もなかった
不格好な縫いぐるみの一点めがけ
真っ逆さまに降りてきた

もう、ただ泣き叫ぶほかなく
その縫いぐるみに包まれた俺は
三反百姓の糞尿にまみれて育ち
一念発起して、安給料取りになった
しかし、いつもドブ板を踏むばかり
頭も白く、髭も白くなってきたけれど
これからのことなどとんとわからないし
この頃は半分呆け眼のまま出退する

俺が現場で下す判断が当たっているのか
そうでないのか
肝心の縫いぐるみの綻びもかなりのもので
ドッグに入ってみてはいかがです
などと意味深長な忠告を受けたりもする

夜中にふと目覚め
俺は魂魄となって降りてきたのだった
との思いに浸ったりしていると
そんなときに限って緊急用の携帯が鳴り
組んだばかりの足場に妙な紐が揺れている
などという奇天烈な連絡が入る

急ぎ呼んだタクシーを待つ間に
降りてくるところはきっちり決まって
いたのだったが
上るところははて という疑念に取り込まれ
茫々とした気色のまま眼玉をめぐらせば
路地から大通りへ曲がり行く霊柩車の屋根に
真白い揚羽が 画然と翼を広げるのを見た


新作(2016.07.01)

星の茶屋

三十三(みとみ)茶屋という
店の名の由来は知らないが
都府楼跡の正面にある
星野村のお茶屋さん

ガラス戸を開けると
ほうじ茶の香ばしさと
店員さんの笑顔が
ふんわりと迎えてくれる
染みとおりそうな明るい笑顔で

山椒の辛味の効いたおにぎり
梅干しの歯ごたえのよいおにぎり
小さなおにぎりが三個
オリオンのかたちに並ぶ

山菜のつくだに
こんにゃくの刺身
茸のおすまし
たっぷりとしたほうじ茶

星野村の調度に囲まれ
一輪挿しの椿の蕾や
埋み火の火鉢などに囲まれ
全天に降る星を仰ぐかに揺られ
渉りゆく風がゆっくりと流れ

小窓いっぱいに
千四百年の時が広がり
都府楼跡の原っぱが正面に広がり
淡い春色に移りつつあり

時間がゆるやかに流れ
呼吸もゆるやかに流れ
いまもまた
千四百年の波音のうらうらを
逍遙し止まぬ星たちと共に流れる


新作(2016.01.01)

田舎者(いなかもん)

過ぎた日は振り返らない
ただ前進あるのみと考えてきたが
我が来た道はこれでよかったのだろうかと
ときどき思い出したりするのは
歳のせいだろうか

過去は過去
すべてはこれからはじまる
という考えに立とうとしているのに
口惜しく過ぎたことが
数珠つなぎに浮かんでくる

はっきり言えるのは
枯れてきたりするなんて
そんなバカなことなぞ
ありはしないということだ

これからだ
まだこれからなんだと
口惜しまぎれに
呪文よろしく呟き聞かせる
とはいえ
我が来た道はこれでよかったのか
という思いに支配される

振り返っているという
ほどに淡々としたものではないし
口惜しさに地団駄踏んで
いるというほどでもないが

やはり振り返っているのだ
あれも間違いだった
これもとどのつまり失敗だった
間抜け野郎のとんかち野郎めと
言い出せばきりがない
なんでこんなに女々しいんだ
どうしてこう喧嘩っ早いんだ
あのときは
きっとホトケ気取りだったんだ 
とか
気障な台詞で決めてやろうなんぞとか
愚にもつかぬ
下手な芝居なぞ似合わないのだ
田舎者には

すべてはこれからだけど
過ぎて行った口惜し過ぎることは
唐変木なりに
嘆かわしいのだ

事実は事実
結果は結果として
丸ごと引き連れ 
からっぽのままに
行くよりほかないのだろう
田舎者には 


北 風


北風が吹いている
ビルの隙間に吹いている
街灯の下にも吹いている

北風が吹いている
屋根の上に吹いている
小さな明かり一つ点けた
屋根の上にも吹いている

北風が吹いている
公園の埃を巻き上げ
音たてて吹いている
ベンチの影に吹いている
トイレの裏に棲み着いた
人たちの上にも吹いている

北風が吹いている
海の方から吹いている
人影の消えてしまった
瓦礫の上に吹いている

北風が吹いている
犬たちの毛を逆立たせ
真向こうから吹いている
犬たちは低く鳴き
遠く鳴き
人影の消えてしまった
村への道を
いつか
知らず
かえっていく


新作(2014.12.12)

見えないもの

見えないものを見る

空の上

大気の渦

海の底

細胞の深奥

見えないものを感じる

蒼空に零れ落ちる涙の一滴

指先に絡みつく微粒子の揺らぎ

大脳辺縁系の震え

檻の内に閉ざされた時の


見えないものを思う

織りなす情動の寄せ 引き

嫉み、悲しみ、怒り、
荒び、諦め



見えますか


なにを見ているのですか

見えていますか

終わった線香花火の飛沫の艶

しなびた夕顔の含羞

蔦葛の叢に紛れ落ちた一葉の

家族 係累 などと呼ばれていたのだった

写真のころ


もしかして

違う領分までもが見える目だって

あるのかもしれません

それはそれ

まるで知らない流れの縁に

ゆらりと立っているのかもしれません

ニンゲンという

誰彼かまわず抱きつきたくなる性分の

そんな 素のニンゲンの恰好で                               


飛び立つ


決まって考え込んでいた

それはひとつのなにかを

どこかへ運びあぐねている

かのようであった


そこにはときに

がんじがらめの

縄がかけられていたり

またときには

舶来ものの化粧が

施されたりしていた


彼女は

いつも心臓をやられていた

彼女の眠りは

彼女の眠りではなかった

それが問題であった


飛び立たねばならない

飛び出さねばならない


彼女の焦りは

屋上から

隣の屋上に

容易くジャンプできると

おおっぴらに

明るく宣言したことであった


彼女の眠りは

十重二十重に見張られていた

そこが問題であった


飛び立たねばならない

飛び出さねばならない

のように戦慄く心臓を抱え

人差指の一本を

失ってしまう前に



主のいない台所


味噌汁をつくる

何年ぶりか

何十年ぶりか

味の何某という粉末を放り込み

馬鈴薯の切り方は適当に

玉葱もほどほどに

刻んだ油揚げも放り込む


しかし味噌がない

肝心の味噌がない

主のいない台所

片っ端から戸棚を開け

味噌がない


何のことはない

食器入れの一番上から

知らんぷり顔で見下ろしている


馬鈴薯は生煮えで

玉葱の刻み方は大き過ぎて

まるで野菜の煮込みよろしく

汁の匂いは一人前で

確かに味噌汁ではあるが

馬鈴薯は生煮えで

玉葱と油揚げが蝙蝠の形に

鍋の表をこんもり覆っている

主のいない台所


炊飯器がぶつぶつ唸り出し

馬鈴薯の切り屑が

シンクにでかい堰をこしらえ

つけっぱなしのテレビに

大雨雷雨竜巻洪水注意報を

役所の公示まがいにきのうから

ずっと貼り付けている



無音


特急列車が街を縦横に走る

高架線や地下鉄から

いつの間にか這いずり出して

心臓病患者の多いビルの屋上にまで

よじのぼってくる


まるで音もなく

あの枕木をガタピシ踏んずけて通る

威圧感もそれこそないのだが

軽くてかるすぎて

千枚通しのように

窓のガラスを突き抜けてしまう


ことぐらい

簡単なことなので

ヒトビトはたやすく

そいつを通過させてしまう


実際ヒトビトはそいつを拒む理由は

なに一つないのだし

そいつが目にも止まらぬ

速さで通り抜けるので

茶の間でお茶を楽しんでいる場合だって


お茶の中にそいつが

無色透明のハイセツブツや

やに下がるような口説を垂れ

振りまいて逃げていったことすら

知らないときがある



新作(2014.02.10)



 

風が

南京ハゼの葉を

吹き抜けると

いっせいに

あたりの信号が

人混みのなかを

歩きはじめる


小鳥たちが

啄みにきたら

風の中に

ぽっかり開いた

口腔たちが

白く笑いはじめる


広場                                          

夜の広場に来て

俺は

ビニールの覆いをとる

冷たくカクテルされた空気の中に

垢と土に汚れた頬を

洗いに出す



自由


遊び呆けて日が暮れる

やぶれかぶれの心には

なにもない

とてつもなく広い場所で

とてつもなく多い人間の中で

俺は完全に迷子になった

とてつもない自由を拾って


愛情


愛情を受けずに育った者は

愛情を知らない

愛するということが

黙ってただ 

ひしと包み込んでやるものだ

ということすら知らない




垂れ下げた手の重みを

女は知らない

赫々と眩しい夢見の中

一気にのぼりつめた空から

ほの蒼い霧が降る



太陽


日は命の始源

日は命の終焉

日が生み出した命は

億兆を超え

日が焼き尽くした命は

億兆を超え



磁気嵐


いとも簡単に

権力者たちは

国と国とのゲームを

目論んだり

ゲームに

のめり込んだりする



詩的連想以外の連想


雑踏の中で

俺は女の尻に

火をつけた


じりじり焦げていく

臭いは

あたりを

屁の中に

蹴込んだようだった


とりまく人間どもは

ろくでもない

間抜けでバカな奴らめ

と叫びよった


ところが女の

神品ともいうべき

代赭色の

観音仏が露出されると

彼らは

眼を瞠り

涙を流した


彼らはみんな

そこから来た


彼女らもみんな

そこから来た


案の定

俺は

石打たれ

爪を剥がされ

刑務所にぶち込まれた



完全調和


物質も存在しない

時間も存在しない

空間も存在しない


存在しないことが

永劫に回帰する


見てごらん

何にもない

何にも存在しない


肉体もない

欲望もない

争いもない


男もない

女もない

魂もない


嘘もない

偽りもない

宙空だとか呼ばれた

小劇場もない


神も

仏も

存在しない


かつて瞬毫の間

幻の戯画が

一閃したという

気配すらない




新作(2014.01.01)


ある野心
                                              
わたしの手の部品をはずす
わたしの足の部品をはずす
わたしの首の部品をはずす
わたしの頭の部品をはずす
わたしの腹の部品をはずす

それらはひとりでに
わたしに近い牛になる




たくましい腕を空が
かすめとってしまったので
なにもかも
かたつむりになる


一頁

兜の下
洗われたばかりの首が
空っ風に
吹き晒される


抒情

吠えすぎた犬
連帯とは
紙屑

歯ぎしりの後の
バンジージャンプ


覚醒

まわりくどい夜がきて
上からのぞいたら
化石した時間が
点々と点々とこぼれ
真白い入口付近に転げ出た
ピラミッドがひしゃげていた


氷河期

すずめが松の枝で
虫を食っていた

てっぺんから
飛行機が落ちてきた

そのとき
魂と魂がぶつかった




電車の中で
流れる風景が
ふいに
舌を噛み切ろうとした


明るい昼

昨日からの細い雨は
音もなく降り続いている

昼食時はとうに過ぎた
というのに

まだ二階の二人は
涎を流し
眠りこけている

蛇口から滴り落ちる水は
すっかり
洗面器を満たしこぼれ

それにしても
めっぽう明るい昼である

昼食時はもうとうに過ぎた
というのに

二階の二人は
昨夜の激しく狂おしい
営みの果てに

それぞれの
足と手とを縛り合い

一瓶の薬を空にし
りんりんりんりんと走り
ほうほうほうほうと上り
るらるらるらるらと漂い

涎を流し
こんなに明るい昼を
眠り呆けている



新作(2013.11.11)

 太陽

日は命の源
日が生み出した命は
億万を数え
日が焼き尽くした命は
億万を数える



 
磁気嵐

日が狂うとき
われわれの星は
いとも簡単に弄ばれ
われわれの星の
権力者たちは
国と国とのゲームを
目論んだり
国売りや
国売り込みの
ゲームに
のめり込んだりする




新作(2013.11.10)

 時間空間
 
目を開けると
藍色の宙空間に星たちがこぼれ
赤い球体や
青い球体や
縞模様の球体などが
あるべきように浮いている

どこかの球体では
妬んだり愚弄したり
罵倒したり
火球を打ち込んだり
自分の縄張りのことで言い募ったり
しながら時間が流れ

どこかの球体では
どこかの他の球体へ
どこかの他の宙空間へ
自在に往来し
時間を巻き戻したり
早送りしたりしながら時間が流れ

目を閉じても
藍色の空間に星たちがこぼれ
無数の球体たちは
あるべきように浮いている




新作(2013.06.16)

 春

交差点を胸張って歩くスーツ
足早に駆け行くスニーカー
新入社員 新入生 
春は 新しい顔 新しい服で街はあふれる

おめでとう 頑張れよ
よろしくお願いします
挨拶は元気一杯に

そう 春になると
逞しい春の芽生えの勢いがあふれ出し
花弁を満開にしたり
勢いがつき過ぎ 爆弾低気圧を招いたりする

よいのだ 間違いだって許される
それでよいのだ 
あっちこっちぶつかり合って
頭をぺこりと下げ 深々と下げ

いらっしゃいませ こんにちは
ありがとうございます 
これでよろしいでしょうか
などと顔赤らめ 声高く叫ぶ

新入社員らしく 新入生らしく
ここは直進 ここではUターン 
ここではじっと我慢

交差点を胸張って歩き 
足早に駆け
舞台に上ったら思い切り胸を張って
ここは直進 ここではUターン
ここでじっと息整え
君自身の初めてのショーを演じるのだ


 産 声

縁あってこの星のこの地に生まれてきた
二十世紀半ばの春が間近な日の午後に生まれる瞬間
慚愧に似た思いがちらと脳裏を過ぎったものの
泣き叫んでいるうちに何を泣き叫んでいるのか
わからなくなってしまった

この世に産声をあげるということは
ひどく大きな意味があるのだと知っていた筈であるのに
自分が派手な一声をあげた途端
この世のものたちの手にとり囲まれ
よってたかって
抱えてきた大切な性根を根っ子から抜き去られ
この世のものとしてしっかり刻印されてしまった

長男だよ 母親似だよ
いや親父似かな 爺さんにも似てやしないか
賢そうな顔してるじゃないか
立派な後継ぎができたよ でかしたでかした

この世に産声をあげるということは
非情な旅路の始まりの合図であった筈で
あまりのことに
怖れをなしてあげた声だったのだろう

この世に刻印され 認知され
この世の魂が吹き込まれてしまった途端
なにもかもをいちどきに忘れてしまう
という
仕組みだったことまでは微かに覚えていたが
三声も泣けば
すっかり肉の肌に馴染んでしまうということが先で
宗派がどうの
国籍がどうの
家柄がどうのなど
せせこましい決め事に揉まれ縒られて
位というものにうちのめされたり 
金にかしずいたり
段々畑を這いずりまわったり
貧民窟に逃げ込んだり
爆弾を腰に巻き付け
砦を目がけて突っ込んでいったりする

そんなことのためにこの世にやってきたなんて
産声をあげたときにもう決まっていたんだったか
決まっていなかったんだったか
思い出せない

思い出せないように
仕組まれていたのだったんだろうか


 姉

姉がいたという
三日だけこの世の空気を吸い
三日だけさやさやと息を吐いた

色白の美人だったよ 
と母がよく言っていた が
夭折した子に捧げるための 贈り名か

名もない
戸籍もない
墓もない

産道を懸命にくぐり出て
三日だけおおきな泣き声をあげ
シュウルルルルウッと
風のまにまに飛んでいってしまった


 海

海は白く淡い
青い風にコンチワといって
指を小さく
ポツンと立てる


 凪

時をいっぱいにのみ
億年の眠りを貪る


海猛り

地がおどり
海が走った

海猛り
地が戦いた

空に雲が流れ
星が零れた

海猛りのとき
稲妻が轟き

大地を
やすやすと分けた




新作(2013.04.01)

 星降る

凍りつく夜に

星降る

空は鉄色
息詰まる蒼さの
宙を呑み
息詰まる疾さの
時を呑み


無音のまま
天頂から
紫色の
星降る


 流れる

雲が流れ
時が流れ
人が流れる

山が流れ
空が流れ
星が流れる

海が流れ
岸辺が流れ

涙が流れ
情(こころ)情(こころ)が流れ
縫い込められた
歴史の糸が
音なく流れる


 絶対無

物も存在しない
時間も存在しない
人も存在しない

存在しないことが
永劫に回帰する

神も
仏も
宙空などと呼ばれた
劇場も
何もない

かつて瞬毫の間に
そんな幻の光が
一閃したのだという


 テンゴク 

けんけんぱけんけんぱと
周りを
スカートの子が跳ぶ
地面に描かれたひねくれコース
ビー玉を指で弾いて
一周する早さを競う

けんけんぱけんけんぱと
スカートの子が白い足を
大きく開いて風に舞う

ビー玉遊びの名前は
テンゴクという
早く一周すれば
そこはテンゴク
一丁上がり

要領のいい子は
ドジな子の二倍も早く
テンゴク行きだ

要領の悪い子は
確かジゴク行きも
あった筈

けんけんぱけんけんぱと
スカートの子が唄いながら
テンゴクに行った子の頭を
フワリとスカートで包む

テンゴクに行った子は
スカートの奥を
見上げる
じっと見上げる
いつまでも見上げる

ここは本物の
テンゴクの入口よ
ここが本物の
テンゴクの入口なのよ
とスカートの子が唄う

けんけんぱけんけんぱ
けんけんぱあのおけんけんぱ
ビー玉をパチンと弾いて
早くテンゴクに行かないと
時間がないよと誘いかける

ここは本物の
テンゴクの入口
ここが本物の
テンゴクの入口なの

けんけんぱけんけんぱ
けんけんぱあのおけんけんぱと
スカートの子が舞い唄う




新作(2012.09.30)

 
生まれたとき

魂の広場というものの中から
ひょいと掬い取られ
肉の塊に投げ込まれ
恐怖の叫び声をあげた

恐ろしく重苦しい
鎧のような肉をまとい
這い出た光景の
あまりの異様さに竦んだ

何かが終わっていくのだという
予兆を見たのだった
肉塊の掟として
息詰まりそうな気体を吸わされ
血生臭い液体を飲まされ

それまで真剣に学び
それまで語り合ってきた
未来への幕が突然遮断され
降ろされてしまったのだ

死の世界に暮らすことが
あるのだという
かつて
そんな学びもした筈だった
死の世界に生まれ
死の世界で生きるという
矛盾の畏怖
地獄絵図そのままの腐臭

どうあがいても
どう泣き叫んでも
肉の身を持つものたちが
私を都合のよいようにあしらい
都合のよいように
仕立てようとする

彼等にはかつて
魂を持った時期というものが
ありはしなかったのか

 食わねばならぬ
 恥じねばならぬ
 目には目を
 大義のための殺戮礼賛

彼等にはかつて
魂としての学びはなかったのか
それとももはや
学びを忘れてしまったのか

 食わねばならぬ
 恥じねばならぬ
 目には目を
 大義のための殺戮礼賛

肉の皮膜をまとった私は
この世界の息詰まりそうな気体を吸い
血生臭い液体を飲まされていく度に
純な魂だった頃の記憶が
薄められ
そのスピードは加速度を増し

生まれ出たときの
あまりの異様さや畏怖でさえも
まるで痕跡を留めぬよう
縫い込められていく




新作(2012.09.29)

 
完全調和

物質も存在しない
時間も存在しない
超人も存在しない

存在しないことが
永劫に回帰する

見てごらん
何にもない
何にも存在しない

神も
仏も
存在しない
魂だとか
嘘偽りで
宇宙だとか呼ばれた
小劇場も
何にもない

かつて瞬時の間
幻の戯画が
一閃したというが
何かの例えにしか
過ぎない




新作(2012.09.28)

 
星降る

秋の涼しい空に

星降る

空の色はマリンブルー
息詰まる深さで
山々の険しい頂を
呑み
乾いた空気の粒を
サイダーのように
泡立てる

マリンブルーの空を
透かし

星降る

大気圏の上に
分厚い陽光が
層をなし
層の上に
星降る

空の色はマリンブルー
息詰まる深さの奥に
億兆の時の
瞬間に発し
過つことなく
走り来たった

今の今の時
星降る



新作(2012.09.27)

 
流れる

雲が流れ
時が流れ
人が流れる

空が流れ
時の流れが流れ
進化図が流れる

星が流れ
時間が流れ
縫い込められた
歴史の
血潮が流れ出る




新作(2012.09.26)

 
暗渠 

けんけんぱけんけんぱと
周りを
スカートの子が跳ぶ
ビー玉を指で弾いて
一周する早さを競う

けんけんぱけんけんぱと
スカートの子が白い足を
大きく開いて風に向かう
ビー玉遊びの名前は
テンゴクという

早く一周すれば
そこはテンゴクで
一丁上がり
要領のいい子は
ドジな子の二倍も早く
テンゴク行きだ

要領の悪い子は
確かジゴク行きも
あった筈

けんけんぱけんけんぱと
スカートの子が
テンゴクに行った子の頭を
フワリとスカートで包む

テンゴクに行った子は
スカートの奥を
見上げる
じっと見上げる
いつまでも見上げる
そこには暗渠が見える

暗渠の深い穴が
暗渠のびらびらの穴が
本物のテンゴクの
長いトンネルの
果てまで見通せる穴が

ここは本物の
テンゴクの入口よ
ここが本物の
テンゴクの出口よ
とスカートの子が唄う

けんけんぱけんけんぱと
ジゴクに落ち込んだ子の
鼻先でスカートの子は
早くしないと
時間がないよと
誘いかける

ビー玉をパチンと弾いて
早くテンゴクに行ったら
すぐに
暗渠を見せてあげるから

本物の
テンゴクの入口
本物の
テンゴクの出口なのよ

けんけんぱけんけんぱ
けんけんぱけんけんぱと
スカートの子が跳び唄う



新作(2012.09.25)

 
黒揚羽

胸が塞がれるような苦しさと
心穿たれるような痛みに
泣き叫びそうになっていたとき

黒揚羽が颯爽と舞った

言い掛かりともいうべき
無理難題や苦情に難渋し
出口への気持を失い掛けて
いたとき

黒揚羽がどこからともなく表れ
二回旋回して去った 

故知らない執拗な攻撃に
崩れ落ちそうになり
希望という希望がちっとも
見えてこないとき

黒揚羽が目の前で旋回する

これは亡き母の魂が
黒揚羽になって表れているのだ
とはっきり気付いた

母が他界するのを
待っていたかのように
襲ってくる故知れない
それも母が世話をしてきたことを
逆恨みするかのような
くねったねじ込み話ばかり

晴れない気持でいる前を
ああ今また
黒揚羽が行って戻り
もう一度行って戻った



新作(2012.06.10)

 
産声

縁あってこの星の
この地に生まれてきた
二十世紀半ばの
春が間近な日の午後に
生まれる瞬間
悔恨に似た思いがちらと
脳裏を過ぎったものの
泣き叫んでいるうちに
何を泣き叫んでいるのか
わからなくなってしまった

この世に産声をあげるということは
ひどく大切な意味があるのだと
聞き知っていた筈であるのに
自分が派手な一声をあげた途端
この世のものたちの手に
とり囲まれてしまい
よってたかって
抱えてきた魂が抜き去られてしまい
この世のものとして
刻印されてしまった

長男だよ
お母さん似だよ
いや親父さん似かな
賢そうな顔してるじゃないか
立派な後継ぎができたよ
でかしたでかした

この世に
産声をあげるということは
悲しい出来事の始まりの印であり
あまりのことに怖れをなし
あげる声だったのではなかったか

この世に刻印され
この世の魂が吹き込まれて
しまった途端
なにもかもを一時に
忘れてしまう
という次第になるということまでは
微かに覚えていたが
三声も泣けば
すっかり肉の肌に馴染んでしまう
ということのようで

宗派がどうの
国籍がどうの
家柄がどうのなど
せせこましい決め事に揉まれ
縒られて
金にかしずき
位に脅され
段々畑を耕したり
貧民窟に逃げ込んだり
爆弾を腰に巻き付け
砦を目がけて突っ込んでいったりする

そんなことのために
この世にやって来たなんて
産声をあげたときに
もう決まっていたんだったか
決まっていなかったんだったか
何も思い出せない

何も思い出せないよう仕組まれて
いるのだったろうか



新作(2012.05.12)

 


叢には風が淀んでいる
分け入ってみると
とてつもない古い風が屈み込んで
いつのものとも知れない
歌を歌っている

 幾つも花が咲いて
 幾つも戦があって
 幾つも蛇が生まれて
 幾つも弔いがあって
 幾つも鐘が鳴って
 幾つも虫が鳴いて

鋭い鎌の刃を当て
叢に挑もうとする
鳥や風が運んできた種が
無粋な雑木を繁らせ
奔放に伸び出した
薄が鋭い葉を尖らせ
背高泡立草が背を越す勢いで
蔓がそれらに絡まり
石が向こう臑を蹴上げ
蛇がゆったり枝を下り
蜂がいきなり舞い上がる

 幾つも土砂が流れ来て
 幾つも火が放たれ
 幾つも土が盛り上がり
 幾つも岸が削られ
 幾つもの朝が来て
 幾つもの月が出て

鎌を腰の紐にはさみ
一歩を進む
手には軍手
頭にヘルメット
石にしたたか躓き
蔓に足首を引かれ
長袖の分厚い作業着の下では
どろどろの汗が煮え滾り
流れて
饐えて
発酵をはじめる




新作(2012.04.30)

 
病棟

見栄や嫉妬が部屋中に
みんなの体中に張り付いている

Aさんは娘が毎日訪ねて来る
でも一人もんで
五十になった娘のもらい手は
なかったらしい
Aさんもお陰で大助かり
だろうけどな

Bさんは息子が一月前に一度来て
なにやら口喧嘩して
五分で飛び出して行った
それっきり後は誰も来ない

Cさんはおしゃべり
亡くなった旦那は高校長
息子は有名大学を出て
何とかという一流会社の部長で
部下が三百人
二番目の息子はアメリカ在住
植物学研究の権威だとか
三番目の息子は父親の後を継いで
高校の教頭
教頭が毎日夕方寄って行く
しかし嫁が見舞いにきたことは
一度もない

Dさんは無口
いつもカーテンを引いて
籠もってばかり
夜中にバカヤローと
金切り声で叫んで
違う病室に移されて行ったから
今ベッドは空いているんよ

Eさんは洋品店のおかみさん
もう代を譲って楽隠居
と思っていたら
亭主は余所に女をこしらえて
入り浸りらしい
Eさんは公衆電話で
毎晩一時間も喋って来る
ときどき今のおかみが
部屋に愛嬌をふりまいて
帰って行くけれど

Fさんは百姓
何でも牛の飼料を切る機械で
自分の手を切断したらしい
その傷が治ったと思ったら
検査で子宮の病気が見付かって
外科から移されて来たばかり

Gさんも、Hさんも、Iさんも
部屋のみんなに切り開かれ
切り刻まれ
話の肴にされている

産婦人科のGさんは
五人目だとか
極めつけは耳鼻咽喉科のKさんで
旦那は市の助役だから
来年の選挙のための
運動を兼ねているらしい
仮病かもしれん とか



新作(2012.04.27)

 


交差点を胸張って歩くスーツ
足早に駆け行くスニーカー
新入社員
新入生 
春は新しい顔 新しい服で
街はあふれる

おめでとう
ありがとう
よろしくお願いします
朝一番の挨拶は変わらない

そう 春になると
春の勢いがつき
花弁を満開にしたり
勢いがつき過ぎて
爆弾低気圧を招いたりする

よいのだ
間違いだって許されるときだ
それでよいのだ
あっちこっちぶつかり合って
頭をぺこりと下げ
深々と下げ

いらっしゃいませ
こんにちわ
ありがとうございます
これでよろしかったでしょうか
などと
顔赤らめ
声高く叫ぶ

新入社員らしく
新入生らしく

ここは直進
ここではUターン
ここではじっと我慢

交差点を胸張って歩くスーツ
足早に駆け行くスニーカー
舞台に上ったら
思い切って
胸を張って
ここは直進
ここではUターン
ここではじっと我慢




新作(2012.04.25)

 
禁断の実

禁断の木の実を食べました
どれほど美味だったのかというと
空気を吸い
水を飲み干すようで
酩酊感もなく
高揚感もありません

岡の頂上まで
歩いて上っても一時間とかからず
路を違えることもなく
朱色の禁断の実は
実は瑠璃色に発光して撓み
ふさふさと実を繁らせ
三歳の子供でも一人で容易く
千切ることができます

禁断の木の実を食べたもので
戻って来たものはない
と言われますが
禁断の木の実を一口食べると
足先が消えます
二口食べると
膝から下が消えてしまいます

一度食べ出すと
中途で止めることは恐らく
出来ないでしょうから
腰が消え
腹が消え
順番に消えていき
すっかり消えてしまうと
禁断の木の実を食べたものたちの
蒼穹の入口が
ぽっかりと大きく開き
なんのことなく
滑り込むことになります

小鳥たちも競って食べ
獰猛な恐竜たちは
枝ごと引き千切って食べ
熟して落ちた実を
地面も食べてしまいますし
幹や枝だってエキスを
吸い込んでしまいますから

いま岡の上で見ることが
出来るのは
もちろん消えてしまった
小鳥が
囓り残した実が八個と
五本の枝が宙に浮かんでいて
浸食された入江のように
切り立った岸の上に
ほろほろほろと
風に吹かれている姿です




新作(2012.04.24)

 
死の故郷

死が空中に落ちていました
もともと死の故郷は
空中にあるようです
死と言うより
生の卵だとも言いますが

生の卵は
どこの誰がいつ生み付けた
ものか
空中の至るところに
ポンポン弾んでいます

いつでも
どの方向にでも
卵は瞬時に移動し
ニンゲンになったり
ワニになったり
釣り天井になったり
するのです

二億年前の空間に呼ばれて
行く卵もあれば
三千年後の山脈になる
卵もあります

卵の一つ一つは
とてもプライドが高く
己の役割をよくよく
心得ているのです
使命とか言う
しかつめらしい言い方を
する場合がありますが
彼らの内には遺伝子だの
運命だのという素因子の
使命が組み込まれていて

忠実に役目を果たすことが
大義なのだと言います
落ちて浮かんでいる死
いや生の卵たちは
それはもう頑固で
金槌で叩き割っても
鉄砲玉をぶっ放したぐらいでは
びくともしません
なにしろ
死 いや
死の末裔ですから
それはもう




新作(2012.04.23)

 
走る

私が走っていました
空に向かって走っていました
地面に寝転んだ恰好から
そのまま走り出たのです
真っ直ぐに空に向かい
平坦な道を
胸張って進むように
私が走っていました

空気が薄くなり
山を越え
だんだんと太陽が間近に
なることなど
何の頓着もなく
薄野でも走るように
食用蛙の声を聞き
鯉の泳ぎを眺めながら
川の流れに沿うように
ゆったりと余裕で
微笑み

バンアレン帯を突き抜けて
金星の軌道をくぐり
いくつかの小惑星を
蹴鞠のように蹴り
磁気嵐を軽々と抜け
大フレアの炎を潜り
黒点の渦を何なく抜け

平坦な道を
胸張って進むように
空に向かって
私は走っていました

オリオンのリゲルを
横に見て
ペテルギウスを足元に
私は息を乱すこともなく
ときどきは
両手を代わる代わるに
降ったり
回したりしながら
私が走っていました

呼吸など楽で
距離といっても
ほんの束の間の程度で
シリウスを折り返して
元の路を辿るなど
造作もないことです
私は深呼吸を一つすると
確信をしっかり抱いて
また
すたすた
走り始めました




新作(2012.04.12)

 
味噌汁

味噌汁をつくってみる
何年ぶりか
何十年ぶりか
出汁をとり
具を入れる

馬鈴薯の切り方のほどは
適当に
玉葱もほどほどに
刻んで
油揚げまで放り込む

味噌がない
肝心の味噌がない
主のいない台所
片っ端から戸棚を開け
味噌がない
さて
何のことはない
食器入れの一番上に
ほら
と ござる

馬鈴薯は生煮えで
玉葱の刻み方が
大き過ぎて
まるで
野菜の煮込み紛いで

味噌汁の匂いだけは
確かで
やっぱり味噌汁では
あるが
馬鈴薯は生煮えで
玉葱が蝙蝠の形に
鍋の表を覆っている
主のいない台所は




新作(2012.02.25)

 
呼ぶものがある

極めよ
高めよ
ずんずん伸びよ
こんなにもあつらえられている
こんなにも開かれている

呼べよ
求めよ
自分を知れ

蓑虫のように籠もらずに
でんでんむしのように曲がる
ことなく
手を伸ばしてみるがよい
卑屈になることなど
いつでもいいが

始めてみる
まず一足から始めてみる

自分で歩いて
自分で向きを変え
自分で走り出す

のろのろ這ってみたっていい
後ろに下がりかけたっていい

スタートラインに立つ
息を整え
スタートしてみる

呼ぶものがある
たくさんの声が呼んでいる 
右に右に
左に左に
空にも足元にも
風の流れのなかにも




新作(2012.02.21)

 
木枯らし

爪先から
頭のてっぺんまで凍り付かせる
風が
真向かいから
吹き付けてくる

指が凍て付き
耳が千切れそうで
涙が止まらない

風の通り道らしく
川沿いの葉を篩い落とした柳が
狙い打ちされ
左に右に
御幣を打ち振るう
かのように平伏
つかまつっているらしい

自転車の車輪にも
風は執拗に絡まり付き
容赦ない言葉を
恫喝じみた言葉を
吐き捨てる

何処に行くのか知るもんかい
風の言葉は汚いが
雲を吹き流し
山肌を削って来る勢いは
地のものではない

人を山を川を谷を
千年の杉の葉を
幹を揺さぶり
定めなどない勢いで
北風は荒ぶり
大股で駆け抜ける




新作(2012.02.08)

 種の危機

女の股を這いのぼった
紙魚のような生き物が
女の中に忍び入り
やがて月満ちるのを待つ

女は安くて荒れくれた
精子をぐちゃぐちゃに飲んで
酔っ払っているから
紙魚の種が忍び込んで来た
ことなど
まるで知らない

赤ん坊は抱き上げられもせず
孤児院に引き取られるから
紙魚の赤ん坊は
暖かい孤児院で育つ

なにしろ
女の股は精子をぐちゃぐちゃに
飲み過ぎるし
今の精子の能力では
ヒトの種など
めったに芽生えない

ギンダラ星の末裔たちが
生き残りをかけて選んだのが
女の股
紙魚の種
それも安っぽい股にだ

安っぽい股には
もはや精子の数など皆無に
等しいが
手当たり次第の
精液を酔うほどに浴び
生めよ増やせよのこの星の
浮沈を握っている

それほど
この星ではヒトがまばらに
なって久しいのだ
大地が揺れ
海が荒れ狂い
どこが南でどこが北なのか
てんでわからないうちに
ヒトが壁の向こうに
次々と
次々と消えていく

星も見えない
太陽も姿を消した今も
股という股は
通りすがりのオトコたちが
立ち寄る度に
ぐちゃぐちゃの精液を浴び
紙魚の種が忍び込んだかも
しれない子宮を
ウインドウいっぱいに
並べ
飾っている




新作(2012.01.16)

 


僕の回りを蜂が飛ぶ
蜂が飛び交う
僕の行く手に
足長蜂が飛ぶ
威嚇するように
恫喝するように
僕が指名手配の犯人
ででもあるかのように
蜂が飛び交い
つきまとう

特別指名手配A
僕に付けられた呼称は
どうやらそんなことだ
僕がやらかしたことと
いったら
大戦後のどさくさに
生まれ出たということだ

特別指名手配B
僕がやらかしたことは
苦い蜜を蓄え
地味な白い花を咲かせた
ということだ

特別指名手配C
僕がやらかしたことと
いったら
苦く渋い蜜を蓄え
道端に赤い花を咲かせた
ということだけだ




新作(2012.01.15-2)

 
友達

友を失った
生まれ合わせたときからの
友を失っていった
僕が離れたのだ
僕が付き合おうと
しないのだ

文芸って
やくざなもんだろう
文芸って
遊びみたいなもんだろう

言われた僕は
友だちの方を捨てた
やくざな
遊びみたいなものの方を
余計に身近に
引き寄せた

偏屈の呆け
であってもいい
変人の理屈まわし
であってもいい
やくざな
遊びみたいなものの方を
選んだ




新作(2012.01.15)

 
三半規管

頭の中に蝸牛がいて
のろのろ這い出し
前に角を出し
後ろに足を伸ばしたり
天井を掴もうと
やおら立ち上がったり

左右前後
沈降上昇の
定まらない動きを
繰り返すので

もう少し暖かくなってから
這い出してはくれないか
もう少し先を考えて
とんぼ返りなど
してくれないか

熱にうなされ
夢を見ていた
僕の三半規管よ
お前はまだ
十七歳のままだ

僕はいつの間にか
老人と呼ばれたりして
いるが
高熱の間ぐらい
這い出すのを
待ってくれないか
僕はまだまだ
元気いっぱいなのだ
から




新作(2012.01.14)

 
さびしいね

北風が吹いている
夜の闇に吹いている
街灯の下にも吹いている

北風が吹いている
屋根の上に吹いている
小さな明かり一つ点けた
屋根の上に吹いている
明かりの灯らない屋根の
上にも吹いている

北風が吹いている
公園の埃を巻き上げて
吹いている
ベンチの影に吹いている
トイレの裏に蹲った
人の上にも吹いている

北風が吹いている
海の上に吹いている
人影など見えない
瓦礫の上に吹いている
基礎だけが無惨に残った
瓦礫の上の
空中をただ吹き抜けている




新作(2012.01.13)

 
杣道

大腿骨骨折という
八十を越えて冬に向かい
片付けものなどしていた

いつものように
八十年ずっとやってきたことを
炊事、洗濯、掃除、回覧板届け

隣が空き家で
そのまた隣も空き屋
隣と言っても
百メートルも離れ
歩く距離が三倍になったはいいが
途中の道は杣道だ
簡易舗装はしているといっても
木の根が伸び出す
雨に濡れる

伸び出した
木の根を避けようと
回り込んだつもりが
たたらを踏んで
腰から簡易舗装の上に落ちた
片肘も付いた
さいわいそれで済んだ
と思ったのに
足が立たない
体の芯に痛みがある
ゆえの知れない痛みがある
とにかく足が立たない

杣道で二時間
横たわったままだ
激しい痛みは冷えを伴い
歯が一人でに鳴る
昼間だから軽装で出掛けてきた
だんだん日暮れてくる
声が出ない
声が出たとて杣道を
歩いて来る者などいない

三時間
意識が薄らいでいく
このまま凍えてしまうのか
痛みも冷えも寒さも
去りはしないのだが
なにをどうする気色もない

夕飯の準備をしかけていた
大根を刻んでいた
幸いガスには点火していない
玄関は開け放したままだ
電話にも出られないな
など埒もないことが
次々に頭を過ぎる

三時間半
子供の声がした
杣道に紛れ込んで来た者がいる
大人も一緒だ
ここらでは見慣れない顔
びっくり顔で屈み込む大人
携帯で一一九を呼ぶ
お名前は?
ここはどこですか?
場所はどこだと聞かれますが?
どうやら繋がったらしい
私ですか?
土地の者ではありません
偶然道に迷い込んで

どうなさったんですか?
子供がどこかでしたいと
急にお腹が痛くなったらしくて
ええ、大の方を
こらえきれずに今そこで




旧作(2012.01.12)

 


海は白く淡い
風とサヨナラをいって
小さな指を
ポツンと立てる




新作(2012.01.09)

 
或る独白

XやYなるものには
いつも檻に閉じこめられ
目隠しをされ
耳を塞がれ
視線の先を遮られ

この世の中に
電車が走っていることも
どんな男や女だって
学び行かねばならないことも
向こうには青空があることさえ
教えてくれなかった
もっとも
XやY自身が知らなかったのかも
しれないし
知ろうともしなかった

口をついて出ることばは
秩序を守れ!
笑われるな!
家のためだ!
つまらぬことを知ってはならない!
甘ったれるな!
といういうものばかり

Xだったか
XとYだったか
Zだったか
よく覚えていないが
とにかく小さく
小粒に小粒になることが
美徳だと
口酸っぱくなるほど
強要された
強要される方の
僕も僕でしかなかったのだろうが

僕はそれでも
これでは潰されそうだよと
口答えはしたが
XもYもZもしたたかだった
昔からこうしてきたんだ
それしかない
そんなんじゃ笑われるだろう
の一点張り

呪縛は今も続く
いったん逃れ出たものの
四方八方に張られた縄目が
がんじがらめに
巻きかえしてくる
僕の心や
あたりの風景のあちこちを
絞めあげ
捩りあげ
棘がまつわりつく

XやYやZの縄目は
どこへでもしたたかに延び
芽を吹き出すのだから
逃れる術など
どこにもない



新作(2012.01.06)

 
或るふるさと考

僕にはふるさとがない
ゆかしいものの懐に抱かれ
ゆったりと憩い
ゆったりと流れる時間を
慈しむなどという
ふるさとがない

かたちの上での
ふるさとはあるにはあるが
それは鋭い錐の先だ
日の目を見ることのない
檻の中だ
刑場の鞭打ち場だ
吹雪に曝され続ける
石切り場だ

何恨むでもなく
拗ねるでもないが
かつて僕がいた場所は
幼い子供にはとても耐えられ
なかった
少しでも広い場所へ
動こうという気配でも見せれば
すかさず
狙い撃ちに遭った

泣くこともはばかられた
泣く声の色さえ
計られた
この家の者はそんな声では
泣かないものだと
罵られた
第一泣くなんぞという
恥ずかしいことが
あってたまるものかと
打擲された

光の見えない場所だった
一歩先さえ
見えない場所だった
目の高さのところには
遮蔽が施されていた

新聞も届かなかった
電波も遮られていた
鎖にこそ繋がれていないが
目に見えない鋲が
いたるところに
撒かれていた
そこがふるさとだった

逃げても逃げても
ふるさとが追いかけてくる
手をもぎ取り
足を撃ち
蜘蛛の糸のような
網を投げてくる

蜘蛛の糸を払い
光の方へ
光の方へと一散に駆ける
駆ける!
駆ける!
駆ける!

駆け続けても
駆け続けても
振り返ってみれば
やはり
あのふるさとと名乗るものが
きっちり
背中に
へばりついている



新作(2012.01.05)

 
憩い

地上には
僕に限っては
憩いの場はないの
かもしれない
憩いの時間は
ないのかもしれない

四十年以上前の
手術場で
僕は生身を
刻まれていた
一時間で切れた
麻酔の後
三時間の間
腹は開かれ
腸が切り刻まれた

痛い
という言葉は空しい
がらんどうに
突き抜けてしまえば
涼しい風に吹かれ
すごくやさしい気持で
なにごとも
どうでもよくって
その進み具合を見ていた
手術台の上から
ふらりふらあり
天上のあたりを
彷徨いながら

ごうと空高くに
移動したり
日の当たっている
屋根や尖塔の色を
眺めわたしたり
するりと
手術場に戻ったり
しながら

言葉にすれば
放たれたいまは
なんとも快適でしかなく
というのが最も
適切だったのかも
しれない

やばいよ
やっこさん
まだ息がありそうか
難しいところに来ちまった
まいったな

医師は懸命に
メスをさばいている
看護婦も
どす黒くなった目の隈を
とろんと弛ませ
のろのろ従っている
なんと
四時間が経ったのだ

もういいですよ
僕の言葉が
唇をそう動かしたのだが
声にならないのだろう
本当に
いいんですからもう

ヨッシャー
一丁上がり!
医師はメスを放り出すと
その場に
へたり込んでしまった
看護婦があわてて
医師の顔を覗き
僕の顔を覗き込んだ

ビシビシと打つ
人の指が頬で鳴る
天上に浮かんでいた僕が
その拍子に
あわてて手術台の僕に
潜り込み
蚊の鳴き声を
真似たのだった

助かったんだぞ君
医師が足をよろけさせながら
僕の頬を打っている
マスクを外し
伸び出した無精髭の
顔を綻ばせている

僕の下腹部に
激しい痛みが戻ってきた
イキ・テイル・ラシイ
憩いのただ中にいると
思っていた筈だったが
医師と看護婦の
けたたましい声に
反応しないのも
具合悪いなと
僕は考えて
いたようであるが
次の瞬間には
あまりの痛さのために
声にならない言葉を
発した筈だ

余計なこと
しなくていいですよ
余計なことですよ全く
こんなに気持ちよく
空を泳いでいると
いうのに



新作(2012.01.04)

 
いのち

いのちはこの世限りのものだと
教えられた
いのちはこの世限りのものだと
思っていた

貧乏でも
金持ちでも
帝国大学出でも
性悪でも
心臓病持ちでも
ころりと死んだ赤ん坊も
あちこちに子供をこさえた
ホラ吹き男も
包丁で斬り付けた女も
詐欺でふんだくって金を貯め
素知らぬ顔の男も
数百人の上に立ち
ふん反り返れるだけ
ふん反り返っている男や女も

一回限りの
いのちだったら
やりたい放題の
し放題じゃないかと
ぼくは耳をとぎ澄ましながら
いのちに聞いた
目をまっさらに凝らしながら
いのちに聞いた
なにも聞こえないし
なにも見えないのに

最近しかし
ようやく必死に
いのちが呼びかけて
くれていることに
気付いた
津波で流されたり
放射能を浴びたりして
これで
いのちが一回きりでしか
ないのだとしたら
示しがつかないだろう
フツーに考えてもみなよと

いのちは必死に
必死にぼくの胸を叩き
呼びかけているのだった
一回きりなんて
誰がいったんだい
生き代わり
死に代わりしているように
しか見えないだろうけれど
いのちは死んだり
しないんだよ
決して死ぬわけないんだよ
いのちは
いつも生きてるんだよ
ほらここに
わかるだろう
空の上や空の下や
ここにもそこにもこちらにも
ほうらね




旧作(2012.01.03)

 
無音

特急列車が街を縦横に走る
そいつは高架線や地下鉄から
いつの間にか這いずり出して
心臓病患者の多いビルの屋上にまで
よじのぼってくる
まるで音もなく
あの枕木をガタピシ踏んずけて通る
威圧感もそれこそないのだが
軽くてかるすぎて
千枚通しのように
窓のガラスを突き抜けてしまう
ことぐらい
簡単なことなので
ヒトビトはたやすく
そいつを通過させてしまう
実際ヒトビトはそいつを拒む理由は
なに一つないのだし
そいつが目にも止まらない
早さで通り抜けるので
茶の間でお茶を楽しんでいるヒトだって
お茶の中にそいつが
無色透明のダイナマイトを
振りまいて逃げていったことすら
知らないときがある




新作(2012.01.01)

 
信じる

できることは信じることだけ
できることはついて行くことだけ

できることは見上げることだけ
できることは頷くことだけ
できることはただ頷くことだけ

透き通った空の上
空の空のまた空の上の
この世界を俯瞰されている
風のような
雷のような
大嵐のような
潮騒のような
正しい言葉に満ちた
あなたのほかには誰もいないという

あなたを信じることだけ
あなたを信じ通すことだけ




新作(2011.12.30)

 
冬が音たてて

冬が来る
音たてて来る
びょうびょうふうふう
北風が走る
がたぴしばたばたーん
雨戸が閉まる
ぞぞぞだらだらだらだだだだ
雨が雪をともない
ガラス戸を打つ
しゃーんしゃーんしゃんしゅん
寺の鐘の音も
声嗄れで

冬が音たてて来る
喚きながら走って来る
猫がぎゃがぎゃが
もつれ合い
犬が鎖を引き摺り
さかさかさかさかさささ
かさかさかさかさががが
屋根かけ上がる

男はひもじい心のままに
しゃにむに歩き出す
がむしゃらに足を掻き
無様な己の来し方を
雪が消してくれるのか
くれないのか
問題は男がどこに立って
いるのかを
見失ってしまっていることだ
頼りなさといったらない
恐ろしさといったらない
ここはどこだ
俺はどこを歩いてる
吹雪が激しく
向こうが見えないほどに
舞い煙る

冬がやって来る
山の上に
家々の屋根の上に
海の上に
地を這う風とともに
空から落下する風とともに
宙空から唸り始める
ラッパや狼や
虎の叫びとともに
路標にしがみついた男を浚い
ひゅうるるひゅうるるる
ごあっはごあっは
はははははっははははっ




新作(2011.11.27)

 
冬が来る

大丈夫だと言うから
稲作ったのに
放射能に汚染されている
という

予感はあったさ
この土地に
この土地の上に
降ったんだもんなあ
わんさかと
放射能が

だとて
田圃を遊ばせといたら
めったなことでは
稲実らなくなる

もとより
鋤きこんで
何度も混ぜ返し
有機肥料など工夫し
ナンバー1の
米を作る準備は
ずっと
怠らずにきたんだ

でもな
米粒に放射能が
混じってるなんど
悲しいさ
そりゃあ
口惜しいさ

こうやって
掬い上げてる
米粒の
眩しいばかりの

まるで
ぷっくりと
光り輝く
宝石みたいでねえか

でもな
米粒に放射能が
混じってるなんど
どうすりゃ
ええのんか
なんてえこったか

日がな
刈田眺めてたら
もう日が暮れよる
やけに
足元から
冷えてきたな
風も
出てきたなあ
雪ん子でも
くるべか




新作(2011.11.17)

 
般若心経

叔母の形見にともらった
般若心経

叔母はこの秋
突然帰らぬ人となった

その父を、母を
兄姉達を全て見送り
丁重に見送り
全ての全てを見送り
自分が最後の人となった

かねてから
身辺の整理に努め
最後は人の世話に
ならぬようにと
いつも祈ってきた

いつも仏前に向かい
般若心経を誦んでいた
黄ばんで
少しの染みが
入っているが
新品同様の経本

冗談好きで
世話好きで
思慮分別に優れた
ところはまるで
光のような存在だった

経本には
叔母の指が触れ
心が通い
思いがいっぱいに
詰まっているに
違いない

 色即是空
 空即是色
 不生不滅
 不増不減

などという世界に
叔母であれば
何の迷いもなく
ただちに辿り着いたに
違いない

恐る恐る
般若心経を誦してみる
何度も何度もつかえ
もたもたしながら

叔母の息遣いの残る
経本の入口から
必死に中を
覗き込んでみる



新作(2011.11.07)

 
海猛り

地がおどり
海が走った

海猛り
地が戦いた

空に雲が流れ
星が零れた




新作(2011.11.06)

 
現代詩フェスティバル

国民文化祭・京都2011
80を数えるイベント
現代詩フェスティバル
こころを整える・文化発心
癒しのこころ・今こそ文化の底力
生きることばのきらめく出会い
京都テルサ
京都府民総合交流プラザ
10月30日

未曾有の危機に直面
人生とは・国とは・未来は
文化の力
癒しの力
人と地域の絆
哀悼の祈り
安らぎと勇気
復興の意志の発信

入賞作品の朗読
惨・悲・失・泣・心・望・温
複雑に絡み合う情・哀・感

抗いようのない惨劇
失うときの瞬時の空隙
残った者への覆さるような自責
闇の中に漂う蛍火
突き刺すような寒さ

よろけつつ立ち
一歩を歩む
半歩を退く
己に打ち付ける轟きのような音
音・声・恐れ・気配の中を
歩く
歩まねばならない

複雑に交錯する情・哀・感
を眼を閉じ聞く
力みもない
大音声でもない
ことばが
ことばが知らずに奏でる
鄙の国の
ゆかしい訛
温みある懐の母性の匂い
忘れぬ母性の慈しみ




新作(2011.10.31)

 
流す

流すことですよ
鍼師は遠慮がちにいう
凝り固まって澱んでいるものをほぐし
通り道を広げ
流れをよくすると
滞っていたもろもろがあるべきように
行くべきように行くのです

自然にある筈のことが損なわれたとき
損なわれたところが苦しくなります
だから通り道を整え
溜まった老廃物やこみ入ったものを
ほぐしてやるのです

五十年の経験で得たものは
それだけだという
初老の鍼師のことばを
正確に伝えているのかどうか
おぼつかない限りであるが
大きくは外れていないと思う

そういえば座禅でも流すといった
座るただ座る
浮かんでくる諸々をただ流す

禅寺での面壁を前に
こむつかしい説教でも聞かされるのかと
なかば覚悟していたのに
和尚のことばはそれだけだった

四十五分の間
頭を過ぎる諸々を右から左に
左から右に流す
流すだけです

四十五分という簡単そうな
実は無限遠とでもいうべき時間の流れの
遅さに苛立ち
流すことの息苦しさに喘ぎ
恐ろしく流れの悪い四十五分が
ようよう過ぎれば
次の無限遠がゆらりと来てまた遅々と始まる

流すことです
ただ流すことです
鍼師は私の小さな経験にしか過ぎませんがと
顔を伏せながら小さくいった



新作(2011.10.27)

 
コスモス

まっさおの空の海で
ピンク


のはなびらが
ゆったり泳ぐ

かすかな風が
はなびらを揺らし
まっさおの海に

静かな
小さな
波紋を投げる

まっさおの空が
高く
広く
深くなる




新作(2011.10.24)

 
星のお茶屋さん

三十三茶屋という
お店の名前の由来は知らないが
星野村のお茶屋さん
もっとも今では村ではなく
八女市になってしまったという

ガラス戸を開けると
ほうじ茶の香ばしさと
店員さんの優しさが
迎えてくれる
その笑顔は
作りものなどでは
決してない
心に染み通るような
優しい笑顔だ

山椒の辛みの効いた
おりぎり
カリリとした梅干しの
入ったおにぎり
小さなおにぎりが三個
宝石のように並ぶ

山菜のつくだに
こんにゃくの刺身
茸のおすまし

たっぷりとしたほうじ茶
星野村の調度に囲まれ
一輪挿しの椿の蕾や
まだ火のない火鉢などに
囲まれ
時間がゆっくりと
ほっかりと流れる

窓を透いて
千四百年前の都である
都府楼跡が正面に見え
紅葉にはまだ早いけれど
名も知らぬ赤い実が熟れ
少しずつ秋の色に
移ろいつつある

時間はゆるやかに流れ
呼吸もゆるやかに落ち着き
いつの間にか
千四百年の時を
遡った自分がいる



新作(2011.10.19)

 
リフォーム

コンクリートを削り
チェーンソーが唸る
立て替えに近いリフォーム
のようだ
空き家になって半年
買い手がついたらしい

若い夫婦のようだから
シックな佇まいだった家は
お気に召さないらしい
屋根から
玄関から
居間から全部が
いったん剥がされ
新しい装いに変わろうと
している

いっそ立て替えの方が
よいのでは
というのは素人考えか

小さな子供がいますから
と夫婦はいった
子供たちの砂場や
ブランコなども
出来るのだろうか

ピアノが奏でられ
ランドセルが出入り
するのだろうか

覆いの中で進められている
工事が
一月後に終われば
どんな玄関に
どんな色の建物に
変貌するのだろうか




新作(2011.09.10)

 
遙か

近道はない
失敗のない道はない
道はくねっている

道は遠い
遠くてもいい
歩ける道があるだけでいい

懸命に歩く
急がずに歩く
諦めずに歩く

我が道だから
与えられた道だから
選んだ道だから

どんなにくねっていようとも
どんなに勾配がきつくとも

我が道を歩く
我が道を歩くしかない




新作(2011.09.09)

 


からっぽ
なにもない

実は有り余るものがある
抱えきれないほどの
ものがある

見えない
触れどもなにもない
突き抜けてしまう

有り余るものがある
抱えきれないほどの
ものがある

からっぽのように
なにもないもののように
見えている

それが虚



新作(2011.09.07)

 
秋風

空色の風が吹きとおる
穹天をめぐり
川を流れる

川の土手には
曼珠沙華が立ち上がり
猫がひっそりと眠っている 

猫の鼻毛を
風がくすぐると
やおら首を空に向け
大あくびをしただけで
目を閉じる

物干し竿売りの車が
売り声を風に乗せ
ゆったりゆったりとおる

空色の風が吹きとおる
体育祭の練習のスピーカが
川向こうから流れてくる




新作(2011.09.06)

 
2012年問題

地が揺れる
地が割れる
山が火を噴く
山が裂け落ちる
海が躍り上がる
海が陸地の上に駆け上る
水が走る
水が気違いのように暴れる
空気が焼け付く
空気が失せていく
紙幣が紙屑になる
紙幣がゴミ箱に捨てられる
墓が草に没する
墓が斜面を転げ落ちる

食料がない
売り場にも畑にもない
強奪事件になる
芋蔓を奪い合っての強奪事件
人心が乱れる
あくどい者が勝利する
束の間のときを勝利する
火の雨が降る
なにもかもが骨の芯まで焼かれる

天のものが下る
地のものが上る

暗闇になる
三日三晩太陽が昇らない
テレビもない
ラジオもない
車もなければ
道路もズタズタだ
あがいても
あがいても抜けられない
底なし沼だ
誰もいない
誰一人呼びかける者もない

マヤ暦の警告
太陽の異常活動
天体の接近
地軸の逆転
これは宇宙自身の生命活動の
一端に過ぎない
のだという

海の死
大気の死
ものたちの死
屍の影も残さず焼き尽くす
原子の火
原始宇宙のエネルギー

2013年の日が
昇るとすれば
このような阿鼻叫喚の恐怖が
暗黒の長い時が過ぎ行かねば
ならないとされる

ノアの箱舟のような
選別はなされるのだろうか
今のヒトの形が
続くのであろうか

もうそこが近付いている
もうそれは間近にある
もう時間はない
ぶすぶすと煙は
上り始めている
そこら中が燻り始めている



新作(2011.09.05)

 
グローバル

若者は雄飛するのだ
いつまでも親元に
細い糸で
繋ぎ留められるなぞ
冗談じゃない

親も親だ
子は元より
いないものと
思わねばならない
実際数十年前には
影も形もなく
いなかったのだ

グローバルの世に
先祖伝来の
田畑を守って
静かに暮らすなぞ
錯誤もはなはだしい

生まれ出たものは
必ず死ぬ
死んだものの方が
圧倒的に
多いのだ
死んだもののお守りを
四六時中するなどと
そのような悠長な時間は
申し訳ないけど
ないのだから

親もここらで
グローバル化の
厳しさを
見なければならない
知らなければ
ならない

今は先の大戦中よりも
激しく攻められている
という実感がある

至るところが
戦場と化している
それも極めてしたたかな
頭脳戦である



新作(2011.09.04)

 
田舎

自分には田舎はない
田舎では生きられない
幼い頃から
そう断言してきた

断言してきたつもりが
何故だか
いまだ細いヒモで
繋がれている?
らしい不思議?

家制度という難物
これほど自分に相応しくなく
似合わないものはない

田舎の生温かさが
田舎のずうずうしさが
田舎の計算高さが
どうしようもなく
気味悪いのだ

なんだかんだと
言われるけれど
ささやかな自分の周りの空気
だけで他に何もいらない

いずれ都会の雑踏で
行方不明になるのだと
そう卦にも出ているのだし




新作(2011.09.03)

 
肩凝り

持病中の持病の一つ肩凝り
肩凝りですかあ
と笑われてしまうかもしれないが
肩凝りは侮れない

三十年前激しい痛みで
左腕が動かないようになった
痛いと一口に言うが
鋭いもの
鈍いもの
焼けるように熱いものなど
いろいろだ

肩凝りの痛みは
三つが合わさったような痛みで
呼吸ができない
ものが言えない
眠れやしない

整形外科をハシゴし
マッサージに通い
お祓いにまで行った

やけっぱちで鍼の門を叩いた
最も信用しなかったのは事実で
コリをほぐすという説明が
インチキ臭く聞こえた

ふて腐れて治療台に一時間
折り重なっていた疲れが
一ミリほど剥がれた

二回目に三部ほどが剥がれ
手が上がる
手が上がりますよ
思わず鍼師に言ったものだ

頑固な凝りなので
自分もほぐせるのか気を揉み
久しぶりに必死になりました
少し斜めを向いたままで
盲目の鍼師は
静かなリンとした声で言った



新作(2011.09.02)

 
即興曲

ふいとメロディが浮かんでくる
何の曲だかわからない
多分即興の曲
だろうと勝手に思い込む

おたまじゃくしも知らないし
音楽のイロハもわからない
変てこりんなメロディであるに
違いない
勝手に湧いてきては
すぐに消えてしまう

草のそよぐようなメロディ
雲が流れるようなメロディ
葉が散りゆくようなメロディ

記憶にも残らない
今だけのメロディ
自分だけのメロディ

これでも即興曲などと
言えるのだろうか
定義など知らないから
今もトンボの群れ遊ぶ
メロディに心地よく浸っている




新作(2011.09.01)

 
無人の家

無人の家をよく見かける
ほんの数年前まで
娘が孫を何人も連れて
いつも来ていた
夫人は孫が来るのは
嬉しいけど
守りをするのは大変だ
と言うのが口癖だった

理由は知らないが半年前
トラックが二台来て
荷物を運び出して行った
転勤でね
と言う挨拶だった

定年を過ぎての
転勤もあるのかもしれない
と深くは尋ねなかった
よくあるケースだという

いつの間にか
周囲に無人の家が目立つ
無人の家は
網戸が閉ざされ
門が閉ざされ
庭草が一面に覆い
庭木も屋根を覆い尽くす
ように茂る

同じ日に
無人の家の剪定が行われた
一軒は四十年になるわが実家
門かけのメインツリーを
根本から切り倒し
垣根は塀より二十センチ低く
刈り込んだ
周囲の家々に迷惑をかけて
いるらしい
特に落ち葉の時期は
掃除に通い
周囲への挨拶には
廻っていたのだけれど

もう一軒は
くだんの孫だくさんの家
道路に大きく伸び出していた
モチの木などが
根本からバッサリと
切り倒されていた




新作(2011.08.31)

 


狭い畑を掘る
スコップの先に土を掬い
一足一足掘る
乾いた土埃が舞い上がり
生ぬるい風が撫でていく

草を毟る
藪蚊に食われながら
腰を地面に這わせて動く

伸び出した枝を剪る
背伸びをしながら
屋根の高さにまで伸びた
枝を力まかせに剪る

汗の洪水だ
背中に腹に汗が流れ
肌がシワシワにふやける

目に入った汗は
目にしみ
鼻を伝い流れる汗は
しょっぱい
首筋を流れる汗は
顎を伝い
弛んだ喉仏を濡らし
太った腹を濡らし
流れ下る

加齢とともに
汗をかくことが苦手になる
しかしときどきは
息が切れない程度を心得
流れ下る汗とともに
世間の老廃物で固まった
頭や
欲得の澱を
洗い流すことも
悪いことではないようだ




新作(2011.08.30)

 
今は今

育ちに恵まれなかったとか
志望校に行けなかったとか
いい就職に恵まれなかったとか
言い出せば切りがない

幾多の海山を越え
何を蓄えてきたかだ
財を蓄えた者もあるだろうし
他を圧する知識を蓄えた者もあろう
得難い人脈を蓄えてきた者もあろう

世に入れられず
人に恵まれず
自ら進むことを拒んだ者も
あるやも知れない

今は今
今何をどうしたいかだ
ゼロ地点からスタートしようと
志す者もあるやもしれない

いつから初めてもいい
今から始めたって構わないのだ
思い切って歩き始め
思い切って走り始めたとき
思いの外空気の抵抗もなく
思いの外軽々と足を進めることが
出来るかもしれない




新作(2011.08.28)

 
贅沢

いりこ
トマト
枝豆
キュウリ
クロゴマ
少々のご飯

文庫本
一時間の自由
子供から受け継いだ
机椅子

自分の部屋
パソコン

井戸水
モミジのある荒れ庭
この自分




新作(2011.08.27)

 


表札に雨蛙が止まっている
軒の庇にも三匹
インターフォンにも一匹

照っても降っても
ケロリとも鳴かず
動かず
セルロイドの置物みたいに
とまっている

可愛いですね
といってくれた客もあったが
驚いたという客もあった

いつの間に住み着いたの
だったか

家族の話題に毎日のぼり
休みの日にもわざわざ
覗きに出て行く習わしにさえ
なった

いつもの場所に
いつもの顔ぶれが
すまし顔で
我が住まいはここだ
と誠に悠然ととまっている
一国一城の主のように




新作(2011.08.26)

 
雨だれ

小学生のボクを映し
中学生のボクを映し
間遠に落ちてくる雨だれ

一粒の雨だれの中に
小学生のボクがいる
拗ねて捩れた顔をして
何にもつかまるものがない
という
恐れのただ中にいる

何を恐れたのか
何に拗ねていたのか
小学生に上がる前頃までは
その訳を記憶していた
と思えるのに

小学四年生ぐらいから
理詰めの授業が始まり
カオスのように抱えていた
記憶が消えてしまった

一粒の雨だれの中に
中学生のボクがいる
あの虚弱児だったボクが
変わったわけではないが
筋骨逞しくなり
百姓の仕事なら
一通りはこなせる
ようになった

喧嘩はめっぽう強い
二人を投げ飛ばしたり
グランドでは
課外活動中に
戯れから始まり
相手の首を締め上げ
寸前のところまでいった

何でこうふて腐れて
いたのだったか
雨だれはいかにも気怠げに
落ちていくのだが
こんな田舎の片隅に
押し込まれていることに
本気で怒っていたことだけは
確かだ

理屈など言えないから
喧嘩ごしでしか言えないから
心臓の具合が悪いことなど
つい忘れてしまい
売られた喧嘩に明け暮れた

小学生のボクを映す
雨だれ
本当は小学生に上がる前の
雨だれに出会いたいのだが
何かを抱えてきていた筈の
泡々としたあのものの
姿と気分はあるのだが
多分あったのだが
もう思い出せない

カオスのように抱えてきた
それが何だったのかを




新作(2011.08.25)

 
振り返る

振り返らない
前進あるのみと考えてきたが
我が来た道ははて?
とふっと思ったりするのは
歳のせいだろうか

過去は過去
すべてはこれからだ
という考えに立っているのに
口惜しいことが
幾つも浮かんでくる

はっきり言えるのは
枯れてきたりなんかはしない
ということだ

これからだ
これからだと
呪文のように言い聞かせる
とはいえ我が来た道は?
という思いに支配される

振り返っているのかも
知れない
口惜しさに地団駄踏んで
いるのかも知れない

いや振り返ってもいいのだ
間違いだらけだ
失敗だらけだ
畜生この野郎!
などと荒れ狂ってもいいのだ

すべてはこれからだけど
口惜しいことは
口惜しいし
何でこんなざまであるのか
嘆かわしいったらない
なんてこった!

事実は事実
結果は結果として
丸ごと引き連れて
行くよりほかないだろう
すべてのこれからに向けて




新作(2011.08.24)

 
彼岸と此岸

この世界の生活に思い悩み
苦しんでいるとき
ひょいと自分の中心を
彼岸にいる自分とすり変える

見える角度が三百六十度
以上にも広がり
展開するのだから
痛快だ

かつての自分の愚かしい
ことも見えてくる替わりに
何も思い悩むことなど
ないことだって見えてくる

彼岸と此岸
どちらが本拠地であるのか
わからないが
一瞬で星を飛び越えて
しまう彼岸が
此岸より劣っている
とは思うまい

カプセルの中に埋もれている
此岸

此岸も彼岸も
今は今に違いなく
此岸でやるべきことは
たんとあるのだから
彼岸の自分に頼ることは
今はまだ愚かしい

笑ったり泣いたり
怒ったり恨んだり
我を貫いてみたりするのも
此岸の特権なのだから
おおいにやればいい




新作(2011.08.23)

 
息をする

息をするだに苦しい
見えぬ放射能が町に村に
降っている

垂れ込めた雲の下に広がる
瓦礫の散乱
瓦礫が散乱する空地

もとよりここは
空地などではなかった
店が繁盛し
町工場が並び
家々では穏やかな日々を
紡いでいた

父がいて母がいて
歩き始めた赤ん坊がいた
嫁入り前の娘がいた
矍鑠と生きる古老もいた

彼らの多くは
ひしゃげた屋根の下や
数キロの沖合で
見つかった
もはや
息をしない姿になって

三月十一日の
十四時二十六分の直前まで
誰もが
見慣れた明日がくるものと
当然のように思っていた
全く普通に
息を通わせながら

瓦礫の広場は惨たらしくて
何とか逃げおおせた人々も
苦しくて
息が出来ない

放射能が降り注いでいる
からなのか
親を失い
子を失い
仕事を失い
歩こうとする
道を見失ってしまった
からなのか

これは地獄かもしれない
この仕打ちが
地獄なのかもしれない

涙も涸れた
もう言葉も出やしない

復興という旗を立て
懸命に息を吸い込み
懸命に歩き始めようとする
一歩を進むことしか
いま
すべきことはないのだから



新作(2011.08.22)

 
満ち潮引き潮

満ち潮に生まれ
引き潮に死ぬのだと
いうけれど

満ち潮も引き潮も
あったものか
遙かな彼方から
鉄の固まりのような潮が
すさまじい速さで
すさまじい勢いで
走り来て
町を飲む

寄せ来る波に浚われ
引きしざる波に流され

一人一人の命が
一つ一つの命が
マッチ棒のように
無体に
吹き消されていく

満ち潮に生まれ
引き潮に死ぬのだと
いうけれど

逆さまなのか
めちゃくちゃなのか
てんでわからない
わかりゃしない




新作(2011.08.21)

 
原発

夢にも思わなかった
平和の使者と名乗って久しい
原発が
爆発した

大震災に大津波という
事が事とはいえ
平和の使者の正体は
核分裂だ
放射能だ

人間の制御のもとにある
と信じて疑わなかった原発が
いったん野に放たれるや
本来の悪魔の姿に早変わり

空気も水も
作物も土壌も
人間も牛も馬も
犬も猫も
海も魚も
貝もわかめも
悪魔の息を吹きかけられ

降り注ぐ放射能の元では
暮らすことは出来ない

放射能自体目に見えない
ものだから
疑心暗鬼が横行する
放射能自体目に見えない
ものなので
風評が勝手に歩きまわる

たまったものではない
政府も電力会社も御用学者も
バラバラなことをいい
肝心なことは漏らさないから
信じるものがない
何を信じてよいかわからない

こいつは悪魔の仕業ではないか
この期に及んで
まだ利権に目が眩む奴がいる

弱き者たちの声を聞け
丸腰の者たちの嘆きを聞け
肝心の彼らの今を将来を
放っておいて
会社がどうの
組織がどうの
俺の手柄がどうの
党派がどうのこうのなど
全く下劣過ぎはしないか
真っ当な人間のすることでは
ないだろう



新作(2011.08.20)

 
津波

真昼の海が
突然断崖を突き立てたように
盛り上がり
白波を蹴立てて
押し寄せ
堤防の上を軽々と越えた

ひどくゆったりとした
スピードのようで
ありながら

海沿いの店が
加工工場が
船が
次々と浚われていった

川の流れを押し返し
上流へと向かった白波は
橋を流し
商店街を流し
郵便局を流し
病院を流し
協会を寺院を流し
工場を流し
家を流し
田を流し
畑を流し
ビニールハウスを流し
木々を流し
路を流し

車の列を飲み込み
逃げ惑う人間を飲み込み
園庭に集合した子供たちを
飲み込み

緊急避難放送の声を
断ち切り
おうおうと呻くばかりの
人の胸の温みを断ち切り

おうおうと驚くばかりの
おうおうと狼狽えるばかりの
おうおうと泣き叫ぶばかりの
おうおうと頽れるばかりの
人々を尻目に
白波はアメーバのように
増殖し

断末魔の音声も忘れ
救けを求めることも忘れ
念仏を唱えることも忘れ
呆然と立ち竦むばかりの
人々を尻目に
引き裂き
浚い
放り捨て
底知れない暴虐の
限りを尽くし
この世のものとも思えない
殺戮の場を
白昼の元につくり出したのだ




新作(2011.08.19)

 
灯籠踊り

千人の浴衣姿の乙女たちが
頭上に金銀の灯籠を頂き
よへほ節のゆったりした
リズムにあわせて踊る

その昔の松明が
灯籠に変わり
頭上の金銀の灯籠は
和紙と糊だけで作られている

薄暗闇に千の灯が浮かび
千の蛍が渦のように舞う

乙女たちの表情は
天から舞い降りてきた
かのように
きりりと口結び
ほのかに笑みを浮かべ

そこに見えていてさえ届かぬ
あちらの世界へ迷い込んだ
かのような
幽明の境へ
誘いゆくかのような
妖しささへ漂わせ

ゆっくりとゆったりと
斜めに横に
あちらからこちらへと
幾千の蛍火となり
幾千の燐光となり
はじけ翔けめぐり
胸奥の遙かなものに向かい
打ち付け
打ち寄せ
穿ち揺らめかせる



新作(2011.08.18)

 
亜熱帯化

南の国の植物が育つんですよ
店先での立ち話だ

名前はなんだったか
確かに南国の植物らしい
木肌が柔らかくて伸びやすく
葉もてっぺんに大きく開いて
いかにもおおらかな風情だ

北限だとかの難しい
ことはわからないけれど
種をカウンターの水に
浸けていたら
ぐんぐん伸び出したという

子供の頃からすれば
二、三度は上がってますよ
三十五度を超えるなんて
昔はなかったですからねえ

店の婦人は汗を拭き拭き
馴染み客との立ち話に
余念がない

気温も変だし
スコールのように雨が来る
稲妻の走りも激しい
おまけに電気事情が悪いので
空調温度を高く設定している
のも一因でしょうけどねえ

婦人たちの立ち話は
尽きないが
亜熱帯化しているというのは
的を得ているかもしれない

両極の氷が溶け
何度も何度も
地が揺れ動いたりしていると
地軸が妙な具合に
傾き始めていたりしても
おかしくないのかも知れない



新作(2011.08.14)

 
盂蘭盆会

仏前に香花灯と共に
菓子果物等々を供え
家族一同うち揃いて
供養するなり

読経に続き
和尚の言葉が朗々と響き
鉦が鳴る

位牌には戒名が書かれ
写真の在りし日の笑顔は
変わらない

東日本大震災のこと
知ってる?
そう聞いてみても
言葉は返ってこないけれど
皆知ってるよ
という念波が来るような
気配がする

ならば進学のことは?
ならば就職のことは?
なんとかなるさ
と念波にはそうある

願わくばこの功徳を
子々孫々にまで及ぼし
たまえ

和尚の言葉は
まだ続いている

あっちもこっちも
結構大変なんだよ
だから信じて進むしか
ないだろう
ふと誰かがそう囁いた
ような気がした




新作(2011.08.01)

 
ハグロ・トンボ 

梅雨の頃からか
ひっそりと寄り添っている
部屋を開ければ濡れ縁に
玄関の伝い石に
夏草はびこる庭隅に

黒い紗の羽を広げたり
ゆっくり閉じたり
瑠璃色に光る細い胴体を
ピンと伸ばし
もの言わず居る
同じところに居る
翌日も翌々日も居る

湿った西風に飛ばされそうに
なりながらも
濡れ縁に
玄関の伝い石に
夏草はびこる庭隅に
平気の平座で居る
西風のときは羽を東に寄せ
東風のときは羽を西に寄せ

クマ蝉が賑やかに鳴き
アブラ蝉が引き擦るように鳴き
塩辛トンボが鼻先を過ぎっても
平気の平座で
つくねんと
同じところに居る




新作(2011.07.30)

 
時計

三十数年をともに歩んできた
スーパーの三割引きで買ったやつ
今日などついに終わったか
と羽を休め
動きを止めたかのようにみえた
やつの裏蓋をこじあけ
試みに電池を入れ替えてみた
案の定ピクリともしない
二十回以上も瀕死の状態から
帰還してくれた名もなき時計

やむなしと放っておいたの
だったが
いやいやこいつはヤワな
やつではない
ともう一つの電池を入れてみた

つつつと息を吹き返した
ではないか
なんだやっぱりお前は
ただものではないな

二年前京都の哲学の道で
転んだとき
バラバラになりながら
どっこい生き長らえてきたやつ
寿命はとっくに過ぎてますよ
時計屋はこう曰うたのだ

今何年目の奇跡に
挑んでいるのだろう
スーパーの三割引きの売り場に
所在なげに並べられていた
今はメーカーさえも行方知れない
名もない時計




新作(2011.07.29)

 
入道雲

飛行機の窓から入道雲を
見下ろす
切り立った崖が
鋭い底知れぬ谷が
照り輝く雪渓が
いくつもいくつも
遠くにあり
近くにあり
目の前にもある

雪に埋もれた念仏寺の
野仏のひとつひとつの頭に
降り積んだ雪景色の
ようでもあり
生きとし生けるものが
いつか必ず通るのだという
白銀の道のようでもある

飛行機の胴体を
ガタガタ揺らす気流の
上り下りなど知らぬ気に
いくつもいくつもの
世紀を越えてきたかのような
氷河のような
氷山のような
氷雪のような
太古の世界から吹き上げる
真白い綿毛のような礫が
ひょっこりと湧き起こり
悠然と宙に漂っている



旧作(2011.07.20)

 
終章

ケメコは歌っていた
有刺鉄線の向こうで
鳴るのはブルースでは
ない
もうすぐプラモデルは
出来上がるのだ
緑色のハンカチーフに
マイクを押し包み
ただ
しわがれ声で歌っていた




新作(2011.07.18)

 
ヒグラシを聞きに

深山渓谷で鳴くものと
ばかり思っていたヒグラシ
政庁跡の林でそれと聞く

林に足を踏み入れ
耳をそばだてる

カナカナカナ
リンリンリン
とは鳴かない

リリリリリリだったり
ルルルルルルだったり
キキキキキキだったりする

高い澄んだ声で
木々のあいだを声だけが
飛び交い
リリリリリリ
ルルルルルル
とあたりに谺する

左に足を踏み出すと
左で鳴き
右に足を踏み出すと
真上で鳴いたりする

幼い頃
羽が眩いほどに透明な
蝉に出会ったことがある
田舎の山奥でだった

いま鳴いているヒグラシも
多分羽が光に溶けるように
美しい透明な姿をしているに
違いない

声の方をずっと見上げても
声が移った方向に
目をじっと向けても
羽も姿も見えない

リリリリリリ
ルルルルルルと美しい
胸に染みいるような声で
鳴いているのに

目の前を何度も
何度も過ぎったに違いないのに

多分羽が光に溶けるように
透明な姿をしているので
人間の目には見ることが
できないのだ

ほらそこで
いまも
リリリリリリ
ルルルルルルと美しい
胸に染みいるような声で
鳴いているのに




旧作(2011.07.16)

 
法師蝉
 
庭先で突然法師蝉が鳴き出した
ガラス窓のすぐ上のあたりで
大きな声で泣き出したので
ふっとわれに返って
ガラス窓を透かし見るように
目を上げた

昨夜の嵐で痛めつけられたダリアや
盆栽仕立ての松や
初秋の暖かい日射しを浴びて
ゆらりと立つトネリコのむこうの
隣屋から伸び出した椎の古木の枝に
銀色の羽をせわし気に揺らしながら
あたりの空気を震わせて鳴く
法師蝉がいた

瓦が飛ばされていた
風が鋭角に曲がって吹いていた
道路標識が転がっていた
家々の戸が開き
子どもたちの甲高い声が叫んだ
今日学校は休みだね
運動会は延期だね
法師蝉はじりじりと後ずさりながら
小さな声で鳴き続けていた



新作(2011.07.15)

 


夢に魘され
夢に踊らされてきた

夢はさり気なくやって来て
他愛のないままに去っていくのが
習いであるが

足元の支えをはずし
大地をはずし
住んでいる星をはずし
空の星をはずし

父や母の声をはずし
友達の声をはずし
人々の声まではずしてしまった

ここで火が点いたように
踊り狂っていたのだったが

流し去るまでには
いかない
到底いかない

夢は夢
夢は夢であるのだろうが
なに一つ手だてがない
今も
今だに




新作(2011.07.13)

 
自由

石橋を叩いて
なお渡らない自由もある
足元を確かめもせず
走り始める自由もある

どちらだっていい
流儀を相手に飲ませるなんて
おせっかいでなくて
なんであろう

渡らないがため
向こうを見ることなく
無鉄砲に走り出して
無様に落ち転げたりしても
自分が痛いだけだ

自分が痛いのを
他のせいにしたり
石ころのせいにしたりするから
なにも始まらない
なにも失わない

火の中に手を入れるのも
温々と懐手を決め込むのも
当人が決めることだろう
おせっかいなんて
もはや人間をするなということ
なのかもしれないのだから



新作(2011.07.09)

 
風に吹かれて

都府楼の礎石に腰をかけ
指の丈ほどに伸びた原っぱの草が
風に吹かれるさまを眺める
薄緑色の草は細い糸のようで
湿った西風が吹きかけると
サラサラサラとこぞって東に靡く

夕方七時を過ぎ
無人の原っぱはがらんどうに広い

雲を低く走らせ
サクラやモミジの木々を翻らせて
しかし西風はなにゆえか
微かな憂いを携えているようで
原っぱの草群に寄りすがるように
吹きかけている

いま悲しくはないかい
どこまで行くの
あの山を越えてもう一つ山を越え
行きっ放しなの
今度東から西に向け
雲が流れ始めるときまではね

暮れ落ちていくなか
礎石に腰を降ろしていると
西風のことばも草のことばも
手にとるように聞こえ
湿った西風が抱え込んでいるらしい
憂いのさまも
指の丈ほどに伸びた草たちの
けなげなさまも

千年の雨風に打たれ
鋭敏に研ぎ澄まされた
礎石の魂の震えを通じて
なんでも聞くことができる








)

索 引



風に吹かれて

自由



法師蝉

ヒグラシを聞きに

終章

入道雲

時計

ハグロ・トンボ

盂蘭盆会

亜熱帯化

灯籠踊り

津波

原発

満ち潮引き潮

息をする

彼岸と此岸

振り返る

雨だれ



贅沢

今は今



無人の家

即興曲

肩凝り

田舎

グローバル

2012年問題

秋風



遙か

リフォーム

星のお茶屋さん

コスモス

流す

現代詩フェスティバル

海猛り

般若心経

冬が来る

冬が音たてて

信じる

無音

いのち

憩い

或るふるさと考

或る独白



杣道

さびしいね

三半規管

友達



種の危機

木枯らし

呼ぶものがある

味噌汁

走る

死の故郷

禁断の実



病棟



産声

黒揚羽

暗渠

流れる

星降る

完全調和

生まれたとき

テンゴク

絶対無

流れる

星降る

海猛り







産 声



時間空間

磁気嵐

太陽

明るい昼




氷河期

覚醒


抒情

一頁



ある野心

完全調和

詩的連想以外の連想

磁気嵐

太陽



愛情

自由

広場




無音

主のいない台所

飛びたつ

見えますか

見えないもの

北 風

田舎者(いなかもん)

星の茶屋

白い蝶

行方もしれず

三半規管

君には似合わない

子犬

或るふるさと考

生まれたときから















































































































































































































































































































































































































































































































































































































































 

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