詩 



詩NO2へ

日記的に書いたもので、推敲が十分ではありません。お見苦しい点は、御容赦願います。


【近作】(2009.12.31)

 
無有恐怖

心をおおう煩悩が消え
心をおおう煩悩が消えると
無有恐怖になると
般若心経にうたわれている

煩悩という
そのものからして
よくわからないのであるが
煩悩に満ち溢れた日々を
送っているであろうことは
十分承知だ

煩悩を消す
煩悩に囚われない

そう考えると
気が遠くなりそうで
へなへなとしゃがみ込んで
しまう

雪が降っている
綺麗だな
寒そうだな
と感じるのも煩悩の
仕業だろうか

田舎から餅が届いた
ありがとう
気をかけてもらって
というのも煩悩の
仕業だろうか

てやんでえ
俺の仕事のどこが
まずいんだ
感覚の違い、方法の違い
に過ぎないだろう
という手合いは
もうまさに煩悩の
仕業であろうと思われる

がどうであれ
日々無有恐怖にならない
ところをみると
自分のありとあらゆる
ところが
煩悩の海にどっぷり浸り
暮らしているという
のだろう

心をおおう煩悩が消え
心をおおう煩悩が消えると―

煩悩、ああそれは
自分の宿命であるのか
自分の因業への報いであるのか
いずこかへの道程に向かうための
必須のカリキュラムの類いなので
あるのだろうか




【近作】(2009.12.30)

 
般若心経

叔母の形見にともらった
般若心経

叔母はこの秋
突然帰らぬ人となった

その父を、母を
兄姉達を全て見送り
丁重に見送り
全ての全てを見送り
自分が最後の人となった

かねてから
身辺の整理に努め
最後は人の世話に
ならぬようにと
いつも祈ってきた

いつも仏前に向かい
般若心経を誦んでいた
黄ばんで
少しの染みが
入っているが
新品同様の経本

冗談好きで
世話好きで
思慮分別に優れた
ところはまるで
光のような存在だった

経本には
叔母の指が触れ
心が通い
思いがいっぱいに
詰まっているに
違いない

 色即是空
 空即是色
 不生不滅
 不増不減

などという世界に
叔母であれば
何の迷いもなく
ただちに辿り着いたに
違いない

恐る恐る
般若心経を誦してみる
何度も何度もつかえ
もたもたしながら

叔母の息遣いの残る
経本の入口から
必死に中を
覗き込んでみる




【近作】(2009.12.29)

 


埃を払う
埃を拭き取る
埃が舞い上がる
埃が降ってくる

自分の小さな部屋を
職場のこびりついた窓を
伽藍の天蓋を
六十万石の天守を

年の終わりに
男が
係員やパートタイマーが
小僧達が
町内会の世話人達が

せっせせっせと
雑巾を濡らし
はたきをかけ
青竹を差しのばし
埃を払う

年の終わりの埃は
渦巻きのように
蛇の尻尾のように
竜巻のように巻き起こり

男達の頭に
小僧達の衣に
野球帽の頭上に

薄雲のように舞い降り
煙のように湧き上がり

やがて
幔幕の向こうに
嵐が引きゆくように
飛び去ってしまうのだから
不思議だ

実に摩訶不思議だ



【近作】(2009.12.24)

 
楕円軌道

中心がある
聖なる中心がある
光輝く中心がある

ものたちが中心を見上げ
中心に向かい
一寸でも近付こうとする

中には
中心があることさえ
知らず
中心があろうと
中心がなかろうと
知ろうとすることさえ
知らないものも
いるが

ものたちの全てが
中心の周りを
凄いスピードで
あるいは
遅々とした歩みで
巡っている

中心のあることを
知るものも
中心のあることなど
知らないものも
中心に向かい
一寸でも近付こうと
いう恰好で

クルクル
ゆるゆると周りを
巡るものだから

完璧な円には
ほど遠く
ゆるやかな
間延びのした
あくびの出るような

奇天烈な
円弧を描きながら
手を振り
足をバタバタなびかせ
中心の周りを
寄せる波のように
ザザッサーッと
サーッザザッと

クルクル
ゆるゆると
飽くこともせず
巡っている




【近作】(2009.12.23)

 
海溝

船が眠っている
一隻、二隻、五隻
マストに風を受けた形のままで
岬の鼻を突っ切ろうとした
エンジンの勢いのままで

船室には大急ぎで舵を切ろうと
屈強な太い腕を伸ばした男が
パイプの煙を燻らし
甲板には帆の傾きを直そうと
半身裸の男たちが
懸命に綱にしがみついている

隣の船では
ちょうど晩餐会の途中で
ふいに停電したものだから
技師たちが発電機の前で
懐中電灯を照らし
懸命な表情で確かめている
貴婦人達は
あら、憎い演出ですわね
などとシャンパンで
喉を潤わせている

少し離れた船では
海賊の親分が
ちょっとぶんどり過ぎたかな
と満更でもない笑いをあげ
手下達はもう前後不覚に
べろんべろんに酔っている

かなり離れた船では
もはや船が船の形を呈してなく
男達のたいていが
頭と胴が離れたり
ゆらゆら彷徨う己の魂魄を
必死の態でつなぎ止めようと
血を吐く思いで
千切れた片手を指を
懸命に虚空に伸ばしている

船の周囲には
すっかり魚たちの死骸が沈み
死骸のなかから
蛇のような形をした魚や
目玉を持たない魚たちが
ゆらゆらと体をくねらせ

マグマの熱で湧いた水が
激しい勢いで
重力に逆らい海面近くまで
吹き上げ
椰子の木よりも高く伸びた
コンブやサンゴの類が
日々のダンスに余念がない




【近作】(2009.12.17)

 
深呼吸

頭の芯が煮詰まっていたり
神経が絡み合っていたりすると
首痛く、頭重く、胃が張り
なんとも重たい自分に
変わってしまう

眠れない
起きあがれない
生欠伸を連発する
些細なことに傷つき
身も世もなくなる

頭の芯が煮詰まっていたり
神経が絡み合っていたりすると
腹の辺りにどろりと
気持の悪い気配があり
首筋が凝り
血圧を下げようにも
動けないない状態になる

現代病かもしれない
職業病かもしれない
今の仕事は殊の外複雑で
展開が早くて
なかなか息が抜けない

人間関係が冷たくなったのか
がさつになったのか
他の分まで思いやるゆとりなど
なかなか見い出せない

身分の保障もままならないし
いつ寒空に放り出されるか
わかったものではない
そんな誠にお寒い事情だから
気持が沈み
内に籠もり
繭玉になったりすることも
無理もないことだ

そんなとき
腹の空気を吐き出し
ありったけ吐き出し
吐いて吐いて吐き尽くすと
腹も、頭も、肩なども
楽になり
温かくなり
すっきりするのだが

深呼吸さえできないほど
疲れきっている

しかし、場合が場合ではないか
ビルの屋上から見下ろす前に
きな臭い瓶の蓋を開ける前に
アクセルをぎゅっと踏み込む前に

息を吐いてみることだ
吐いて、吐いて、吐き尽くして
吸ってみればよい
吐いて、吐いて、吐いて
吸ってみればよい




【近作】(2009.12.12)

 
時計

三十五年もの間左腕で
時を刻み続けてくれた時計が
京都の哲学の道で転んだとき
腕から弾け落ちたことに
気付かなかった

真後ろからきた息子が
ほらと目の前に突き出してくれ
初めてそれと気付いた

道路脇に縄を張るなんて
どうかしている
外国の観光客が道に群れ
急に立ち止まり
行く手を塞いだので
やむなく傍の縄を跨いだのだ

おまけに傘をさしカバンを抱え
不安定なままに跨いだものだから
越えたと思った靴の踵が
わずかに縄にかかってしまった

こんな人通りのなかで
転倒するなど
気恥ずかしいったらない
と気が動転するというより
恥ずかしさの方が先だった

危ない
と誰かの叫ぶ声が耳に届いた
自分でもつんのめっていく自分に
危ないぞと叫んだ
車の急ブレーキの音も聞こえた

幸い空いていた左手を突き
左手一本で全身を支え
転びかけたという態で
さっと起きあがり
そのまま歩き出したのだった

親父なにやってんだよ
息子はそういいたかったの
だろうが
ほらよと時計を差し出したまま
さっさと先に歩いた

バラバラだ
と思った時計はしっかりと
時を刻んでいた
しかしベルトが弾けとび
無惨な姿になっていた

時計が身代わりになったんじゃ
ないですか
と誰かが囁いて通り過ぎた
どっと冷や汗が湧いてきた

確かに時計は
ベルトを失っても
何事もなかったかのように
チッチッと秒針をおどらせ
平然と動いていた




【近作】(2009.12.6)

 
時化の海

吹き付ける風に向かい
舳先が突き進む
フェリーの船体は
ドーンと波に打たれ
ミシミシバリバリと
音を立てる

しかたがないわ
娘が初めてのお産だから
どうしても
今日行かなきゃ
ならないのよ
こんな時化だけど
文句言えないわ

親が転倒して
救急車で
担ぎ込まれたんです
やっと行ける日が
きたんですよ
もう少し早く
駆けつければ
よかったんです
それにしても
怖いほどの
大荒れですね

日頃の行いが
悪いんです
昨日友達の家に
泊まる羽目になって
愚痴を言いながら
飲み過ぎたんです

仕事ですよ勿論
出張ですから
仕方ないでしょう
しかしなぜか私は
時化に縁があるんですよ
やっぱり
ついてないんですねえ

友達の結婚式
海ってこんなに荒れるん
ですか
これが時化と言うんですね
結構面白いじゃないですか

会社辞めて
家に帰るところですよ
クビっていうんですか
自分の場合は

真っ向から
風が吹き付ける
舳先が波の壁を
突き破り
切り裂き
ミシミシバリバリと
音を立てながら
よろよろと進んで行く



【近作】(2009.12.3)

 


ひょいと思い至った
嵯峨野の竹は
天から吊されているのだと

そう考えると合点がいく
行けども行けども
青緑の竹が林立している

もし地面から
這い上ったのだとすると
一本や二本は
横にすねたり
斜めにひねくれたり
していてもよいではないか

そいつが実に
見事に垂直に林立している

こいつが偶然の仕業だと
いえるだろうか
こいつが自然の仕業だと
いえるだろうか

こいつが地面から
顔を出し
辺りを窺い
しっかりと真上を見据え
ぐんぐんと伸び出すことなど
嘘っぱちではないか

こうも疲れて
ひとの尻尾ばかりを
踏みつけようとする
魑魅魍魎ばかりが
跋扈している世の中
にあって

行けども行けども
青緑の直線が林立する
などという仕儀は
もはや地上のものでは
ないだろう

きっと嵯峨野の竹は
ぼくたちに目眩ましの
術を使っておいて
天からサッと
サッサッサッと
瞬く間に
地面に突き立てられて
いくに違いない



【近作】(2009.12.1)

 
竹の道

青い竹が天を指すように伸びる
道には竹囲いがしてあり
上る者と下る者が
互いの目を見るほどの距離に
幅がしつらえてある

風があればゴウと鳴ろう
いや、ゴウゴウと鳴るかもしれぬ

一面の竹がすっと伸びるには
きっと天の方に
甘い光でもあるに違いない
いや、青い空が引き上げて
くれるのだろうか

角を曲がれば
さらに青い竹の林が続く

祇王寺へという標識があったり
食事処があったりする

青い竹が天を指すように伸びる
青い竹の吐く気が青臭くて
ついつい早足で歩いたりして
随分間が空いた距離に
振り返り
手を振ったりする



【近作】(2009.11.30)

 
嵯峨野

竹が真っ直ぐに伸び
空を塞ぐ
青竹が絵の具塗り立ての
ように
青々と伸び
緑色の風がわたる

嵯峨野を歩く
嵯峨野を緑色の魂たちが
ぞろぞろ歩く

道は右に曲がり
道は左に折れ
道の向こうにも
嵯峨野が待っている

落柿舎
祇王寺
念仏寺

嵯峨野の道には
モミジが手を振り
柿の実が日を浴びて照り
青竹が伸びをし
緑色の魂たちが
深い深い深呼吸をする




 
おかしいもの

おかしいものをおかしいと
なかなか言えない
おかしいものをおかしい
などと言えば
とんでもない仕打ちが
待っている
 
さらし首になったり
やんわりと手が後ろに
回るように
なったりする

おかしいものをおかしいと
言えないなんて
これは変だ

弾圧などという仕組みが
まさにそうだ
おかしいという一言を
言うことや
言われることは
命がけだ

見ざる
聞かざる
言わざるなどと
さすがに
よく言ったものだ




【近作】(2009.11.29)

 


垂れ下げた
手の重みを
女は知らない
熱い沈黙の中で
急激にのぼりつめ
真っ赤な空から
涎のような青い汁
が落ちてくる
血の戦慄に似た
深い霧の中で
放たれた
弾が彷徨う



広場

夜の広場に来て
僕は
ビニールの覆いをとるのだ
冷たく死んだ空気の中で
垢と土に汚れた頬を
そっと冷やすのだ
凍り付くような
空気の中に
僕も凍り
眠らない街の
白く点滅する灯りに
晒され
今の刻を
ただ聞いているだけ




 
迷子

遊び呆けて日が暮れる
三十分遅らした時計が
冷たく俺を問い詰める
やぶれかぶれの心には
虚と無があるだけだ
とてつもなく広い場所で
とてつもなく多い人間の中で
俺は完全に迷子になった
しかし、孤独な分だけ
まだ自由なのかもしれない




 
幸福者

みじめであることが
こよなく嬉しい
苦しみ嘆きもだえねば
ならないとき
初めて安心を見出す
凡人であることを知り
枯枝の一本にも
しかぬと知るとき
最大の幸福者に思われる
自分が自分を
はっきりと
突き放して見るとき
これでよいのだと
強く感じる



 
自分

多くの中の自分と対面するが
いったい自分は
確実に
一人でなければならない
暗示のようでいて
完全なる
解答でなければならない
身近なもののようでいて
はるかなもので
なくてはならない
はるかなもののようでいて
身近なもので
なくてはならない

多くの中の自分
多くの中に包まれ
多くの中にちりばめられた
多くの自分の中の自分
その自分が的確に
自分でなくてはならない
その自分が常に
自分でなくてはならない
その自分が常に
はるかなものに
通じていなければならない



【近作】(2009.11.26)

 
青春

海は白く淡い
風とサヨナラをいって
小さな指を
ポツンと立てる




【近作】(2009.11.19)

 
素数

素数ということば 
なんときれいな響きだろう
なんと美しい表現だろう

博士の愛した数式
に出てくるように
素数とはなんと控えめで
なんと完璧な存在なのだろう

素数の現れ方
素数のつながり
それは
秘密めいた
無限の存在への道筋

リーマン予想だとかの
数学の難問があるのだという

素数の現れ方
あり方に
規則性があるのかどうか
ということだろう
などと勝手に解釈して
頷いている

多分勘違いに過ぎないだろう
多分勝手な解釈だろう

しかし
素数の存在を極めていくと
ある大いなる存在の
膝元まで辿り着く
のではないかと
いわれる

というのも
素数というものの
魔力に取り付かれた
幾多の天才たちが
別の次元に去ってさえ

素数の現れくる
宙の階段で
いまも
うじゃうじゃと
ひしめきあいながら
宇宙遊泳をしている
のだから




【近作】(2009.11.14)

 
恐竜伝(一)

一億年もの風雪に耐え抜いた
巨大な議事堂の苔むした議場では
首相のツノメザウルスの長老が
いかめしい角をそびやかし
降り注ぐライトの中を
ゆっくりと演壇に歩み寄った

見よ、われわれの上に
戦禍の時代が過ぎて久しい
われわれ民族は
英知と、博愛と
血のにじむ努力とによって
永久の平和を確立した

神の姿に最も近い
われわれの前途には
果てしない永劫の未来が
約束されている

首相は
やおらこぶしを天に振り上げ
カメラのフラッシュが
燦然と焚かれる瞬間に身構えた

燦然と!
燦然と!
その地鳴りのような
瞬間が焚かれた




 
恐竜伝(二)

いつもの夕暮れは
すぐそこまできていた
薄野には
やわらかい風が
静かに吹きわたっていた

神の姿に最も近い
といわれる
アニュメサウルスの街では
林立するビルの
屋上に立てば

薄野の風景も
エンジン音を
たてることなくすべりゆく
勤め帰りの車の列も
手に取るように
間近に見えた

ことばを発することなく
意志の伝達をすることができ
よって民族間の
トラブルは霧消し
トラブルといえるのは
髭が伸び過ぎ
舌が肥え過ぎた
ということぐらいだった

精神に破綻をきたす
者もなく
悪性腫瘍や
インフルエンザや
動脈硬化などという病は
とうに過去のものとなった

衣食にもこと欠くことなく
地が揺れ
水がおどるということなど
聞いたこともないから
平均寿命は
八百歳をとうに越えている

たまに老眼を過信し
階段を踏み外したりして
転げ落ちたりするのが
死因の第一位で
後は寿命を待つ
ほかない

神の姿に最も近い
といわれる
アニュメサウルスたちは
選ばれた種としての
誇りを胸に

種をあげた技術と知力の
限りを尽くし
雲を突き抜け
天にまで至ろうとする
塔を無数にこしらえてきた

神の姿に最も近い
といわれる
アニュメサウルスにとっては
それはしごく
当然のことで

国民会議が決定した
新たな塔が
今夕
お披露目をするため
薄野を眼下に見下ろす
位置に
アニュメサウルスの長が立ち
感謝の祈りを
始めようとしていた

食らうがいい!
食らうがいい!
と眠たそうな声が
どこからか歌い始め
ふむふむと
波のように笑い始めた

と、いきなり空が裂け
おどろおどろしい声が
去れ!
ともの憂げに囁いた
かと思うと

胸を轟かせながら
新しい塔を見上げていた
臨月のアニュメサウルスたちは
そのまま

前脚を二つに折った
そのままの姿勢で
化石した



【近作】(2009.11.7)

 
内科医院

かかりつけの内科医院は
地域の老人たちの
駆け込み寺

清潔で感じのよい窓口
少々気難しいが気さくな医師

いつも新しい花で迎え
さりげないクラッシック
が流れる

テレビやカセットなど
質素なものだけど
老人達の話の輪には
さわりはない

けばけばしいものなど
なにもないが
駆け込み寺には
それがふさわしい

ときどき窓口からも
話に相づちをうち
穏やかな笑顔が覗く

かかりつけの内科医院は
地域の老人たちの
駆け込み寺だから

あまり混み合うこともない
恰好の待合室が
ゆっくりと時間を
刻んでくれる




【近作】(2009.11.1)

 
町の芸術家

町の芸術家は歳をとらない
歳をとったなどとは思わない
子供の魂をそのまま
抱えているから
今日も大根の葉っぱに止まる
バッタを追って大騒ぎになる

町の芸術家は歳をとらない
歳をとったなどとは思いもしない
お婆さんお先にどうぞ
とバスに乗る順番を譲られても
自分に好意が向けられている
などとは受け取らない
お婆さんと呼ばれたことに立腹し
お爺さんからお先にどうぞと
四十年配の紳士を睨み
やり返してしまう

町の芸術家は歳をとらない
歳をとったなどと思わない
しかしシルバー割引のテーブルには
先陣きってちゃっかり席を占める

町の芸術家は歳をとらない
歳をとったなどとは思わない
店員をつかまえると
自分の体力の続く限り離れず
説明を求める
この色合いとこの色合いの
どちらが映えるかしら
このスタイルとこのスタイルの
どちらが似合うかしら

町の芸術家は歳をとらない
歳をとったなどとはわきまえない
子供の魂をそのままに
抱えているから
大根の葉っぱに止まるバッタを追い
籠に放っては一日中
縁側で何枚も何枚も
スケッチに余念がない

町の芸術家は歳をとらない
歳をとったなどということばがない
バッタに飽きると
自転車にまたがり信号も待たずに
交差点に突入する
子供の魂をそのままに
抱えているから
音をきしませ急ブレーキで止まる車に
ひらひら手を振る




【近作】(2009.10.31)

 
母の記憶

八月九日
あの瞬間のぶざまな戦慄を
川棚というところで知った

空があまりに乾いていたから
大村湾を渡ってくる
得体のしれないどよめきが
赤々と喉元を焦がし

身内をさわさわと
締め上げてくる冷たいものが
胸のあたりで
激しく渦巻き

滴り落ちるのは
汗だったのか
にわかに湧き流れてきた雲から
落ちてくる滴だったのか

赤々と燃え上がるのは
この世の光景であるとも
思えない
彼岸の向こうに
広がるという
鮮烈な紅葉のうち重なり
であったのか

音のない
奇妙に澄んだ
清冽な空気の層
どこまでも見とおせる
空の広がり

森閑とした
空気を透いて
天上のせせらぎのような
軽やかな音曲にのり

得体の知れないどよめきが
肌を目を耳を喉元を
はたはたと
わらわらと打った

それはものたちが
一時の間に
天に競いのぼるという
さざめきの音だったのだろうか

あまりの突然の
ことに
天上の側さえもがうろたえ騒ぐ
靴音の乱れであったのだろうか

ものたち
それは子を持つ母であったり
日々の糧を得るために働く
車引きであったり
戦地に赴いた恋人の
帰りを待つ少女であったり
産まれ落ちたばかりの
乳飲み子であったり

ものたち
それは毎日数千人が
乗り降りする駅のホームであったり
祈りの絶えることのない
教会の鐘の音であったり
校門への坂道に積まれた
形のよい石ころであったり

もうまるで森閑とした
空気を透き
天上のせせらぎのような
涼しく軽やかな音曲にのった
得体の知れないどよめきが

大村湾を渡り
肌を目を耳を喉元をはたはたと
わらわらと打った

母は
得体のしれないどよめきに
喉元を赤々と焦がし

身内にさわさわと
込み上げてくる
冷たい胸の鼓動に身をまかせ

めくるめくような
晴れがましささえ感じながら
眼前に揺れ立つ
逆さまの海軍工廠を
ただじっと
見上げていた




【近作】(2009.10.30)

 
少女

やや傾ぎ加減の立ち姿
なにか遠い
はるかな思いに導いてくれる
淡い光の中の少女

少女が歩を進めるたびに
小刻みに光が揺れる
小刻みに時がたたらを踏む

その瞳の澄明さ
その眼差しのしなやかさ
その唇のやわらかさ

少女が歩を進めるたびに
小刻みに光が揺れ
あっと声にならない声が
唇をもれる

遠くはるかなる者が
存在するとしたら

いかにして
このように悲しい過ちを
しでかすことができるのか

やや傾ぎ加減の立ち姿
なにか遠い
はるかな思いに導いてくれる
淡い光の中の少女

少女が歩を進めるたびに
小刻みに光が揺れ
小さく左右に傾いだ声が
唇をもれる

幾劫もの時空を
束ねるのであろう
遠くはるかなる者が
存在するとしたら

いかにして
このように冷たい仕打ちを
しでかすことができるのか

淡い光の中の少女
どこまでも深く深く透け
どこまでも高く高く
翔けりいく

ほのかな揺らぎにも似た
青い光の中の少女よ



【近作】(2009.10.28)

 
占い

咲く、咲かない、咲く、咲かない
叶う、叶わない、叶う、叶わない

今日の運勢は
ワガママや自信過剰は禁物の時
事を始める前には再度点検すること
となっていた

それを一日の終わりに知る

わかったようなわからないような
当たっているといえば
当たっているようだし
見当違いだといえば
全くの見当違いかもしれない

北東はだめだとか
黄色のシャツはダメだとか
衝動買いに気を付けなさいとか
先祖への敬いが足りないだとか

いわれてみれば
たいてい思い当たる節があり
だったんだよなあ
だったんだもんなあ
というふうにヘコんでしまう

北西の方にいけばよかった
シャツは赤色に決まってるでしょ
いらない週刊誌など買ってきて
墓参りなんか二年もいってないのね

一日の終わりにそんなこと
いわれても
デコボコに塞ぎ込んで
しまうのが落ちで

叶う、叶わない、叶う、叶わない
咲く、咲かない、咲く、咲かない

なんてよせばいいのに
せっかく机の奥深くに
しまい込んだグッズなど取り出し

右にいっても左にいっても
上にのぼっても下にくだっても
埒のあかない占いゲームに
神経のありったけを注ぎ
寝る間を忘れはまり込んでしまう



【近作】(2009.10.27)

 
系図

娘が身籠もって子を産む

子には胤がないため
養子をもらい
嫁が身籠もって子を産む

子は娘を娶れども
あちこちに胤を蒔き
母親の違う子が九人産まれる

子たちは娘を娶り
男に嫁ぎ
四十八人の子が生まれる

子たちは娘を娶り
男に嫁ぎ
父親の違う子や
母親の違う子や
髪の色の違う子や
違うことばを喋る子らが
二百五十二人産まれる

子たちは娘を娶り
男に嫁ぎ
あるいは娘を娶ることもせず
男に嫁ぐこともせず
日の出る国や
日の沈む国で
千三百七十一人が産まれる

ここまでには世間を騒がせた男や
火を点けて逃げた女もいて
もっとも
本家筋はとうに途絶えていて
系図はボロ布同然に
倉の内に眠り

なにが初めで
誰と誰がどう絡み合って
どう転がっていったのかなど
斟酌する余地もない

少しばかり財をなした男は
伽藍をめぐらせ
べたべたと女の尻を撫で

女は女で
八十になっても
厚い口紅をさすことを
一時も忘れやしない



【近作】(2009.10.26)

 
名人

毎朝一人の男によって
駅のゴミ箱の清掃がなされる

容器のフタを開け
ビニールの袋を取り出す

袋の中身に手を入れ分別する

分別したゴミを
中途まで入れた別の袋に
それぞれ入れ込む

空き缶
ペッドボトル
週刊誌
食べ物の殻

一杯になった袋の口を
ぎゅっと結ぶ

新しい袋一枚を
空になった容器に被せ
丁寧に四つに折りたたんだ
新聞紙を容器の底に沈める

真新しくなった容器を傾け
四方から確かめ頷く

雑巾を取り出し
容器をキュッキュッと拭きあげる

男がこの間に費やす時間は
ほんの三分

黒い野球帽をあみだに被った
男は実に手際よく
そこに新しいゴミ箱を
仕立てあげる

三分の後には
ちゃんと次の仕立てにかかる
鼻歌を歌いながら

黒い野球帽をあみだに被った
男はいつも
実に機嫌がよい

同じ時刻に
同じフォームに降りる
ようになって一年

男は傍のゴミ箱を
次々に作り替えていく

ホームが込んでいようと
若い女が群れて騒ごうと
ひどい雨が降ろうと

黒い野球帽をあみだに被った
男はいつも
鼻歌を歌いながら
三分という実に正確なタイムで
新しいゴミ箱を生み出していく



【近作】(2009.10.24)

 
海の座標

はるかに遠い時を経て
はかりしれないほどの
あまたのいのちあるものを
育んできた

いのちあるものが生まれ
いのちあるものが水を切り
いのちあるものが陸にのぼり
いのちあるものが空にのぼった

いのちあるものが目覚め
いのちあるものが跳ね上がり
いのちあるものが歌うたい
いのちあるものが
いつしか永久の眠りにつく

風と接し
空と接し
雲と接し
月や星と接し
幾条もの水脈を引き

炎のごとく狂おしく荒れ
烈火のごとく怒り哮り

なにごともなかったかのように
鎮まり
幾日も幾日も
油を流したように
穏やかにたゆたう

そんなはるかに遠い時を経て
はかりしれないほどの
あまたのいのちあるものを
育んできた

いのちあるものが生まれ
いのちあるものが水を切り
いのちあるものが跳ね上がり
いのちあるものが歌うたい
いのちあるものが
いつしか永久の眠りにつく

底の底には
いのちあったものたちが
おびただしい骸となり
水のように溶け合い

底の底から
新たないのちあるものが生まれ
いのちあるものが水を切り
いのちあるものが跳ね上がる

ときには烈火のごとく怒り哮り
空の高みまで
波濤をとばしたかと思えば
来る日も来る日も
油を流したように
穏やかに澄み渡る

空と接し
幾条もの水脈を引き
月や星たちと
のんびりと話し込んだりもする

底の底では
骸たちが水のように溶けゆき
底の底では新たに
いのちあるものが生まれつつあり



【近作】(2009.10.19)

 
ブラックホール

放蕩の限りを尽くし
暴虐の限りを尽くし
淫蕩の限りを尽くし

詐術を駆使した物盗りや
刃物や飛び道具や
怪しいクスリを用いた
容赦ない殺生などを
平気の平座でやってきた

国のため
家のため
名誉のため
地位のため
金のため

女のため
男のため
親のため
子孫のため
先祖のため

病気を癒すため
病気に突き落とすため

国家の安寧のため
部族の安寧のため
自らの安寧のため
教会の繁栄のため

などというあまたの口実で
放蕩の限りを尽くし
暴虐の限りを尽くし
淫蕩の限りを尽くしてきた

しかし今
一つの判定が下されようと
している
山影に幾本もの光が走り
にわかに地が揺れ動き
海がざわめきだした

人類の繁栄のため
未来の安寧のため
などという麗々しいことばが
発せられて幾久しいが

それらのことばが生みだし
それらのことばが穿って
きたものは
実に自らの足元をどんどん
食いちぎることばかりで
はなかったか

間近に迫ってきている
巨大なものの姿は
見えない

見たものなどいない

透明な空気や
透明な宙の彼方に
それはあるという

命あるものを
正しく権威あるものを
暴虐の限りを尽くした
猛々しいものを

愛しく美しいものを

巨大な神殿を
海を山を
月を星たちを

見えないものが
すっぽりと包み込んでしまう

見えないものが
すうっと通り過ぎてしまう

見えないものが
見えないもののままに
通り過ぎてしまう



【近作】(2009.10.14)

 
ビッグバン

それは気配だった
それはことばだった
それは冴え冴えとした意志だった

それはある瞬間のことを予感させる
気配だった
それはあるものをあらしめようとする
ことばだった
それはある冴え冴えとして強い
意志だった

神もなかった
光もなかった
闇もなかった
時間もなかった
空間もなかった
ないものもなかった

その瞬間がどこからきたのか
知らない
その意志がどこから発せられたのか
知らない
その激情がどう生まれたのか
知らない
その光がどう走り始めたのか
知らない
その闇がどう垂れこめたのか
知らない
その時間がどう刻み始めたのか
知らない
その淡い空間がどう漂い始めたのか
知らない

それはある気配だった
それはあることばだった
それはある冴え冴えとした意志だった

それらが全てだった
それらが全ての全てだった




【近作】(2009.10.12)

 
いのち

いのちあるということは
なんだろう
生きているということは
なんだろう

いのちあるということや
生きているということは
きっと
走ったり転んだり
泣いたり笑いころげたり
すねたり恨んだり
することなのだろう

無邪気に遊び
ときにはののしりあい
ときには激しく好きになり
次々と子供を生みおとす

陣取り合戦に夢中になり
相手の首をあげることに
夢中になり
返り討ちに逢い
血まみれになったり
しようとも
それがいのちを
生きている
ことなのだろう

静かな海に向かい
赤い夕日に胸を染めたり
野原に寝転がったり
流れる雲をただぼんやり
空っぽの顔で
眺めていたりする

父がいて母がいて
やがて
父も老い母も老い
自分も父や母が逝った
歳になっていることに
フト気付いたりする

これが
いのちを生きている
ことなんだろうか
生きているから
いのちがある
のなんだろうか

いのちあるということが
なんだかよくわからない
生きているということも
なんだかよくわからない

でも多分
走ったり転んだり
泣いたり笑いころげたり
すねたり恨んだり
空っぽの顔で
ぼんやり海を眺めて
いたり
することなんだろう




【近作】(2009.10.11)

 
タイムカプセル

いつの時に沈められたのか
いつの時に開かれたのか

タイムカプセルに乗り
現れ出た夢を見た
夕べでも夜更けでもない
真昼の夢であった

空気の壁をするりと抜け
ほんの間近の空間から
ひょいと出てきた

ずい分と長く遠い空を
飛んでいたような記憶は
あるけれど
ほんの先刻に
ふっと現れただけだ

なにくれと緻密な長い訓練を
してきたような記憶も
あるけれど
ほんの先刻に
ふって湧いただけだ

つるつるてんの
白い衣に包まれた
童のような女のような
かたちをもち

額に刻んだからという
遠いかすかな声を最後に
なにも聞こえない
なにも見えない

空気の襞襞をくるりと
すり抜け
観音開きのような細い
隙間をくぐり抜け
ひょっこり出てきた

ここはどこ
ここはいつ
ここはなに




【近作】(2009.10.10)

 
羅針盤

定めない暮らしをしてきた
定めないケンカをしてきた

いきりたっていた
四方に牙を剥いていた

二十四歳で死ぬと決めた
いざとなると崖っぷちから
引き返した

これが俺
これが俺の履歴書

いつの間にか家族ができた
いつの間にか田舎を捨てた
いつの間にか臆病風に
とりつかれた

だがもともと臆病者だった
小さなケンカを売っては
ひたすら逃げた

お前はなにほどの者だと
自分にケチをつけた
俺はなぜこういうてたらく
なんだと運命を呪った
ただケチをつけることで
逃げをうった

これが俺
これが俺の履歴書

羊の顔をした狼
狼の爪をもった偽うさぎ

てんでめちゃくちゃに仕事に
打ち込んだ
打ち込んだ振りをした
好きでもない仕事を
これ見よがしにやってきた

嫌な顔の
嫌な性格の問題野郎

これが俺
これが俺の履歴書

いつの間にか家族ができ
いつの間にか田舎を捨て
いつの間にか小さな砦に
閉じ籠もってしまった

これが俺
これが俺の履歴書

羅針盤というものを
見たことがない
そんなものなど不要だと
片手に握りかけたものを
放り投げたのだったか

酩酊者のようにやってきた
酩酊者のように荒んできた

だからこれが俺
だからこれが俺の履歴書

彷徨い流離い
行方知れず舵を切る
俺の道を俺の道へ
今も今もこの今も



【近作】(2009.10.3)

 
名月

美しい形状の月が薄雲の間を
すごいスピードで駈ける
背景には澄み渡った空

すごいスピードだね
すごいスピードで駆けめぐって
いるのだね

地球と月という惑星同士の
物理運動だなどというと
情緒など失せてしまうが
このスピードは事実だろう

こんなに猛烈な早さで
互いの均衡を保ちながら
四六時中動いている

その中にあって
山は動かず、故郷は変わらず
などというシャッターチャンス
をものにしたかのような情感を
人は生み出してきた

人は賢いというべきか
人はずる賢いというべきか

すごいスピードだね
でもいいじゃない
すばらしいじゃない

こんなに猛烈なスピードで
動き、変転しながら
冴えわたるような美しい形状を
ときには澄み渡った空に表し

すばらしいシャッターチャンス
のような
天女のような姿を
くっきりと見せてくれるもの



【近作】(2009.10.1)

 
自由に

同人誌の編集にカットがいいの悪いの
なんてやらかす
なにかが間違ってるんじゃないか

やるべきは作品を書くことだ、本来
それが、なんでカットの好悪などに
すり替えられるのか

質の悪いいいがかりだろう
冗談じゃないよ
ボランティアだなんて開き直ってる
つもりなどないけどさ

人の作品にケチをつけることばかり
応援する仕事ってのも嫌だな
いつだってボランティアなど
辞めればいいけど

まあ、しゃあないか
誰だってこんな道を通ってきたんだ

いやいや、もう少しましなケンカを
やってきたつもりだ
というけど、五十歩百歩か

もっと自由に、もっと高く
もっと高く、もっと自由に
書いてみろよ
書くべきことがひしめいている
ほらほら
あちらにもこちらにも



【近作】(2009.9.22)

 
解き放つ

人という頸木を解き放たれ
旅に出る

間違いなく
元来た道をたどり
元から住み慣わしたところに
戻るのだと思う

しかし来るとき
戻るときの垣根は高く
険しい

楽観過ぎるのかもしれない
夢みたいな話なのかもしれない

間違いなく戻る道があり
住み慣わしたところに
戻るなんていうのは

ナンセンス
の一言で片付けられて
しまうのかもしれない

解き放たれるのではなく
むしろ絶対無間の無に帰して
しまうのかもしれない

そうであるかもしれないと
長い間信じてきた

しかしそんな無惨な話は
今はごめんだ
もう願い下げだ

この人という頸木を続ける
ことの方が理不尽だ
人というやつは
悪辣千万なことを考え
平気の平座で
とんでもないことを
やらかしてしまう

そのくせ
どう頑張っても
その域から抜け出せない
と見える

勿論頑張りが足りないのだ
とはよくよく思う

若いうちにも
いろんなことをやらかして
しまうのだが
そうでなくとも
やがて老いというやつが来る

誰彼となく責めつけ
責めたてられる
病というやつもある

こういうわけだ
いやこういうわけでしかないから

人という頸木を解き放たれ
旅に出る
という発想も
許されてもよいのではないか

そう信じきって
いっそ騙されたって

平気の平座のまま
悪辣千万なことをやっている
こととたいして変わりはない
ではないか

こういうわけだ

間違いなく
元来た道をたどり
元から住み慣わしたところに
戻るのだと思いたい

罰が当たったって
五十歩百歩が
いいところではないか




【近作】(2009.9.12)

 
九月の雨

明けきらぬうちから雨
まだ紅葉には早いから
雨の音も静かだ

今日を越すか
といわれた人の耳には
いったい雨の音が
届いているだろうか
ジュージューと鳴る
人工呼吸器の音が
雨の音を遮っている
のかもしれない

天から下に降る雨を
見たことがある
確か四時間に及ぶ
手術中のときだった
家々の屋根に
雨がこぼれ落ち
一つの屋根の下にいる
自分の横たわる姿が
見えていた

今あなたは
峰にかかる雲の上から
あなたの足を撫でさする
私たちの姿が見えている
だろうか
必死にあなたの耳に
伝えようとする声々が
届いているだろうか

九月の朝
急激に冷え込んだ
空の上
あなたはどの色の道標を
たどろうとしているの
だろうか




【近作】(2009.9.6)

 
挽歌

一人一人を丁寧に見送ってきた
あなたが
今度は見送られようとしている

ものには順序があるとはいえ
やはり悲しい

殊更丁寧に人を見送ってきた
あなただから
余計に悲しい

向こう岸からは
あなたに見送られた幾人もが
あなたが着くのを
今か今かと待っている
に違いない

これは悲しむべきことではない
と頭では考えても
私たちはやはり悲しい

別れはどうであれ悲しい
どうでなくとも悲しい

せめてあなたが
別れた後出会うことの喜びの
大きさを思い信じ
悲しい別れを果たそう



【近作】(2009.9.1)

 
正義

イスラエルに三つの宗教の
聖地がある
よく聞けば一つの神の聖地
だという

果たして聖地などという
場所があるのだろうか
神が一点の地を示すという
ことなどがあるのだろうか

人間の勘違いと
欲のために定め求めた土地に
金ピカの伽藍を建て
巨大な偶像を崇拝するという
しくみに過ぎないのではないか

一つの神のために
三つの異なった宗教が生まれ
互いに己れのために
徹底的に他を叩きのめせなどと
果たして
一つの神はいうだろうか

どうにも解せない
パラドックスではないか
神は愛であると
三つの宗教はしゃあしゃあと
のたまうのだが

愛しいが故に三軍に別れ
互いが消滅するまで殺し合う
というシナリオだ

多分宗教というものは
宗教という名が付いた途端
神のものを人間が奪い取り
自らの理屈を通し
利益を強欲に積み上げ
鉄壁な武装をはじめるための
道具になり果てるのでは
ないか

イスラエル以外でも
正義という名の下に
どれだけの生け贄を屠って
きただろうか

どれだけの卑劣な作戦の下に
どれだけの戦果をあげ
どれだけの虐殺をしでかし
暗い眼をギラつかせ
闇の中を猫のように走り
いったい幾つの正義という
狂った旗を掲げ

よしとされるであろうという
信仰という人智が織りなす
正義というものの下に
なにを競ってきたのだろう




【近作】(2009.8.30)

 
光あれば

はるかな宙空から
光が到達する

白いビームのような
百万燭光の電気が一瞬に
はじけるような

例えていえば
そんなことになる

光の速さを測る
モノサシなどないというから
強いて例えれば
そんなことになる
                                                   光のシャワーに
しとど濡れ
頭のてっぺんから爪先まで
しとどに濡れ

悲しい思いや
悲惨な出来事や
思い上がった略奪行為など
全てがしとどに濡れ

瞬時に全てが貫かれ
瞬時に全てが無きものになり
瞬時に全てが有るものになり




【近作】(2009.8.26)

 


清々しい気が満ち
清々しい光が屋根屋根を照らす

道が真っ直ぐに伸びており
空気がすっと流れていく

朝刊がポストに入り
刈り込んだばかりの槇の葉から
甘い香りが漂う

ランドセルが二つ三つ
角を曲がるまで手を振る

川の浅瀬では鯉や鴨や鷺たちが
ゆっくりと餌を探している

電車が入り出ていく
人が駅に吸い込まれ
駅から降り立ち
遮断機の前で急ぎ加減で待つ




【近作】(2009.8.22)

 
怒り

つまらぬことで怒ってみたり
悩んでみたり

およそ埒もないことなのに
三日も経てばもうバカバカし過ぎて

あんなに本気で
何に捻れていたのかと
とんと己にアイソが尽きる

少しは大人になっても悪くはない
ということだろうが
どっこいそうは問屋が卸さない

結局また
つまらぬことで怒ってみたり
悩んでみたり

およそ埒もないことなのに




【近作】(2009.8.16)

 
うつろい

知らぬ間に草が被い
知らぬ間に道が途絶える

かつて田圃に水を張り
かつて共同墓地の入口だった

ほんの五年ぐらいでこうだから
まして二十年五十年後のことなどは
考えられない

今日明日のことに必死で
生きている
今日明日のことだけで
先のことにまで思いが及ばない

心が非情になったのか
我が儘になってしまったのか

瞬時にニュースが駆けめぐり
瞬時に世界が動転する

アナログからデジタルへ

田圃にアナログを当てはめたとて
共同墓地にデジタルを当てはめたとて

明日のことも
五年後のこともわからない

今日明日のことだけに懸命で
先のことにまで思いが及ばない



【近作】(2009.8.12)

 
十七歳宣言

どこへいっても老人
なにをするにしても少年少女

出版界は少年少女の群れにのめり込み
道を開こうとやっきだ

老人達は 自分達の有金と
老いた権威者達の評価でもって
老眼のもの達だけを慰め
堪え得るような作品を

自らの縄張りの中で培養し
完結させようとする

いずれの方向も
権威者達が生き延びようとする
もっともで 人間らしい手段だ

では 老人ではあっても
老眼に堪え得るような作品を
書けないものは どうなる

老人が 愛や性や
時空のことを紡いだりすることは
汚ならしい 年寄りの
妄言綺語とでもうち捨てられるのが
落ちだろう

しからば 十七歳宣言だ

もともと世の暦どおりに歩くのが
うざったいし 
望むところでもない

かくなる上は 時を越え
頑迷なる垣根を越え
道標も 命綱も 何のあてどもない
透明な空に向かい
駆け上ってみるのも一考か



【近作】(2009.8.7)

 
さはさりながら

ニュースを見ても
新聞を読んでも

有効求人倍率五割未満などという
記事が踊る

そのくせ、疑獄、汚職、天下り
などはとんと無くならない

六十歳定年者は溢れるものの
年金は出ないから
こちらの方にはわけのわからない
臨時ポストをこしらえたりする

となると
肝心の就職年齢の若者に割く
ポストがない

もっとも、就労に耐えうる
堅牢、堅固な職場はどんどん
目減りしていく

若者たちは結婚もできない
子供も生まれない
定年を過ぎた親の
わずかな稼ぎで食っていく

子供が少ないから
親も子も我が儘で、甘ったれで
互いに我慢ができない

変な事件が増える
ささいなことで殺し合う
マスコミが芸能番組まがいの
ニュースに仕立て上げる

もうなにが最初で
なにが因業、因果で
なにがどのように捻れて
どうなったのか

その渦中にいて
その空気を吸っていてさえ
説明に窮してしまう

正しいとか、正しくないとか
そんな話はとうにどこかへ
飛んでいってしまった

さはさりながら
宇宙船地球号の上に
悲しい目をした人間という
種のものたちがしがみつき

来るべき宣告の日を待ちながら
ズルズルと時を過ごしている



【近作】(2009.8.6)

 定年

今一つしっくりこない
猛烈に働かされてきたこれまでが
なんだったのだろう

ところが、定年

年金の支給開始を四年、五年先に
伸ばしてしまって

どうしろというのだ

かろうじて再雇用などという制度を
つくりはしたが

現場では露骨にもう用はない
何でこんなところにうろうろしてるの
という態度で迎えられる

あるいは、老害かと

まあ、再雇用先があるというのは
よい方かもしれないが

定年前までのカタキとばかりに
冷ややかな仕打ちを受けることがある

そんなふうに思うのは
あるいは見当違いなのかもしれないが

責任がありそうで、なさそうな
中途半端な仕事が
どうにもしっくりこない 

必要なのか、不必要なのか
などと職場で一人ごちてみようとも

お前の人徳のなさのせいだと
ニタニタと笑われるばかりだ




【近作】(2009.7.31)

 
光舞う

厚い雲からこぼれ出た
朝の光が舞い下りる

辻辻から人が出てくる
辻辻から車が出てくる

新鮮で透き通った光が
屋根をすべり窓をすべり
水辺に佇む鷺の長い脚を
すべり

辻辻から子供が駆け出す
辻辻から母が手を振る

厚い雲からこぼれ出た
朝の光が舞い走る

遠くから電車が滑り込む
構内に人があふれる

少し濁った川が
落ち着きを取り戻し
風を滑らせる

クマ蝉が一斉に鳴きたてる
後ずさりしたり
枝から枝に移ったり

厚い雲からこぼれ出た
朝の光が舞いおどる



【近作】(2009.7.26)

 
豪雨襲来

叩き付ける雨
ぶちまける雨

雨の大軍がうなりをあげて
攻めてくる

堰を切ったように
ダムが決壊したかのように
雨が雪崩れ落ちる

小さい者たちの上に
気弱な者たちの上に
横柄な者たちの上に
勝ち誇った者たちの上に

タタタタタタタタタタタタ
ダダダダダダダダダダダダ

ヒュルヒュルヒュルヒュル
シュルシュルシュルシュル

ゴウゴウゴウゴウゴウゴウ
ドウドウドウドウドウドウ

豪雨襲来
豪雨の大軍襲来

小さい者たちの上に
気弱な者たちの上に
横柄な者たちの上に
勝ち誇った者たちの上に

雄叫びをあげ
攻めてくる

見よ! 見よ!
鉤裂きに走る光を!
台風の目のような
渦の虎落りを!



【近作】(2009.7.25)

 
低気圧停滞

一月以上もの間
低気圧が停滞している

毎日が雨、雨、雨
地面を叩き付ける雨
窓ガラスを叩き付ける雨
街中を不気味に黙らせ
朱色に点滅させる雨

道路にも
膝頭ほどまでの水を溜め
地下の街にも流れ込み
電車やバスの運行を阻む

崖を切り崩し
瓦礫を押し流し
川を狂ったように走らせる

利権に目の眩んだ
政治家たちの動きを隠し
彼らの正体を
上手に押し包む雨

利権を守ろうとする
官僚たちの最も好きな
堀に満々と水を注ぎ込む

生まれ出たばかりの蝉たちは
あまりの異様な光景に
鳴くこともできず
交尾さえままならず
光というものを知らず逝く



【近作】(2009.7.20)

 
プラス思考

夜中に転んで
したたかに腰を打ち付けた
しかし、捻ったわけでも
挫いたわけでもない

雨に降り込められ
鬱陶しさを通り越し
息苦しさに鰓で呼吸をしている
しかし、暗算もできるし
空想を秋空に飛ばすことも
できる

何を好んでか
机にかじりついて
埒もない小説や詩などを
書いている
いや、始終書かねばならない
という観念に囚われている
しかし、今日は何をしようかとか
何もすることがないなどとは
決してなりようがない

野球が始まると
プレイボールからゲームセット
までを見ないと納まらない
頼まれたわけでもないのに
三時間、四時間釘付けになる
しかし、見ないことでの苦しみ
の方が耐え難く
見ないことの三時間、四時間は
不毛の時間となる

元来プライドばかりが高く
気が短い
高望みをするばかりに
学歴も、仕事も、趣味も
全て中途半端だ
しかし、十八歳のとき医者に
匙を投げられたのだったが
どっこい食っていけるだけの
仕事には恵まれ
波の大小をくぐり抜け
定年を過ぎてもしたたかに
棲息している




【近作】(2009.7.17)

 
万華鏡

花弁と花弁がぶつかり合い、
定まる

その鮮やかな切れ味
その得も言われぬ早業

花弁と花弁がくっつき、離れ、
また定まる

その造形の妙
その光り加減の玲

花弁と花弁が飛んで、散って、
定まる

その息つかせぬ間
その無間の広がりへの




【近作】(2009.7.16)

 
確率

正しい定義も知らないのに
確率ということを考えている

生まれる確率、出会う確率
その親から生まれる確率
その親になる確率

ただそれだけの問いを発した
だけであるのに
もうこれは、計算の対象では
なくなる

そのほかに、ほんの数点の条件を
加えただけで
頭が爆発しそうになる

こんな他愛もない日常に暮らして
いるというのに
とんでもない確率の
その確率が生み出す
さらにとんでもない確率の中にある
とでもいわないことには
もう始末におえない

ところで、人類が宇宙人に出会う
確率はどんなだろう
宇宙がくしゃみ一つする時間に
遅れただけで
宇宙人はとんでもない時間の
彼方に移動している

はたして一点で交わるという
確率などあり得るのだろうか

それより、人類が存在する時間など
宇宙のモノサシで見れば
どんな微少な単位であるのだろう

いや、微少であるのか
微少でさえないのか
確率なんかではない
ほかの考えで量るべきなのだろうか



【近作】(2009.7.13)

 
南風

湿りを帯びた生暖かい風が吹く
肌に吹き出した汗を乾かすこともなく
顔にも首筋にも脇の下にも
さらに夥しい汗を吹き出させ

女たちの身に付けた薄い衣を
やたらとめくれ上がらせたりするが

男たちのか細い神経は麻痺したままで
一物を勃起させるには生暖か過ぎて

今夜も消化不良の時を刻んでゆく

ひどく湿りを帯びた生暖かい風吹けば
体も心も冷やせとの指令のとおり

なにやかやと苛立ち多く
なにやかやと不平不満が募るばかり

湿りを帯びた生暖かい風が吹く
肌に吹き出した汗を吹き飛ばすこともなく
心に浮かんだ不快を消すこともなく
冷や冷やとした思いばかりが流れゆく




【近作】(2009.7.10)

 
青い鳥

長く続いた川の増水がやや治まり
涼し気な水音が戻ってきた
薙ぎ倒された川原の草は
褐色に色褪せていたりはするが
決して死滅してはいない
隙あらば芽を育まんと
水音のリズムにしっかり耳を
傾けている

水に折れ臥し
土砂に埋もれた草の背を跨ぐように
背中の青い鳥が姿を現した

鳥はよく動く羽をきびきびと動かし
草の上から傍の枝にひょいと移り
少しだけ首を傾げ
次の瞬間にはまた元の草の上に戻る

鮮やかな青い背が
少し黄ばんだままの川水にきらり
きらりと光るものだから
川縁にはいつの間にか人だかりができ
カメラを抱えた見物客もやってきた

まるで光輝く青い絵の具を
背中に塗ったのかと思えるほどに
青い鳥の背は一際きびきびと青く
川原の褐色の草色との対照が
極めて明確で小気味よい

長く続いた褐色の増水が運んできたのか
土砂に埋もれた草の精ででもあるのか
背中の青い鳥は突如姿を現し
流れのままに水に折れ臥した草の上を
ちょんちょんと歩き
傍の枝にひょいと移っては首を傾げ
すぐにまた元の草の上に戻ってくる 




【近作】(2009.7.7)

 
柿の木

勝手に芽を出した渋柿の木は強い
二度も三度も根本から伐り取り
挙げ句に放置していたのだが
その隙にするすると伸び出し
今では一番高い樹高を誇っている

周囲には丹精をこめた
マキ、カシ、ウメ、モチなどが
並んでいるが
柿の葉色が一番瑞々しく青い

最初から伐り取ったりしなければ
どこまでどう伸びていたのやら
と思う反面
大切に構っていたとしたら
むしろ生きる気色少なく
雑草に隠れるほどにひょろひょろと
弱々しい木の類いだったのかもしれない

その証拠に
名物という甘柿の苗を取り寄せ
毎年施肥を怠らず、雑木は伐り取り
楽しみに成長を待っているのだが
桃栗三年、柿八年の八年を
とうに越したというのに
樹高も伸びず、一向に実をつける
気配すらない

後ろから追いかけてきた渋柿が
それも二度も三度も瀕死の重傷を負い
根性で伸びてきたというのに
もう青い実をつけようとする勢いである

これは偶然ではないのかもしれない
選ばれしものは
これほどの苦労や反骨の中から
初めて姿を現すものかもしれない




【近作】(2009.7.6)

 
法悦

試用期間で馘になったと
身も世もあらぬように嘆いているが
どっこい、喜ぶがよい

ようやくお前の上にも大いなるものが
手を差し伸べておられる
お前が必要とすることを察し
躓きの石ころを転がされたのだ

そうでもしないと
お前は傲岸無比のままで、足るを知らず
足元を見ず
また、上には上があるということにも
気付きようもなかった

お前の前をふっと横切る
風が吹き渡り
嵐が吹き募っても
お前が必要とすることを察し
大いなるものがいつも動いておられる

お前自身が約束して誕生してきたことの中身を
大いなるものはちゃんと知っておられる

大いなるものとお前は
強く太い縁で結ばれている

試用期間で馘になったと
身も世もあらぬように嘆いているが
いよいよ、この時来たると喜ぶがよい




【近作】(2009.7.3)

 
格差

あるところにはあるのだ、お金が
研究室でいうならば
ここといったところにはうなるほど
お金が集まり
使いきれぬことに頭を悩ましている

隣の研究室では
コピーも節約し、鉛筆一本を大事に使う

人が群れてくるのは
当然のごとく前者の方で
後者の方には
よほどのことでもないと寄りつかない

同じことは、国内外のいたるところに
あるのではないか

食料の捨て場に困り
リサイクルの真似事などをしている
かと思えば
争いと、疫病と、飢えとで
塗炭の苦しみを舐めている

前者を勝ち組といってよいのかどうか
疑わしいが
後者の方になるとさすがに
人心が乱れてくるのは否めない

前者にも、後者にも
狡猾な火事場泥棒が徘徊し
人を人とも思わない輩がのさばることに
ならないことだけを願うのみだ



【近作】(2009.7.1)

 
労働考

時間勤務になって
こうも受け身でいていいものかと思う
いや、こうも受け身でなくてはならぬもの
かと思う

時間勤務になる前は
十時になろうと、十一時になろうと
積極的に、自ら考え動くのが当たり前で
休日であろうと、夜中であろうと
家にまで仕事が追いかけてきた

今、有効求人倍率は
四割と少しだという

働き盛りでなければならない若者に
時間勤務や、派遣勤務でさえ十分に
与えられないという

一方、数少ない正規職員は
時間無制限で働くのが当たり前で
十時、十一時はおろか
朝方まで仕事がのしかかってくるという

今、有効求人倍率は
四割と少しだという 

おかしいことがおかしいと
誰も言えなくなってしまっては
泣けばいいのか、バカバカしさに笑うしか
ないのか

泣くしかないのか、バカバカしいと笑うしか
手はないのか




【近作】(2009.6.30)

 
どうにでもなれ

こだわりを捨て、いっそ投げ出してしまうと
叶うこともある

叶うことのために、投げ出してしまう
というわけではないが
どうにも、こうにもならないときは
どうにでもなれだ

小さなプライドや、建前を放り捨ててしまうと
なにを恐れるでもないことが、よくある

開き直るつもりではないが
小さな籠の扉を開け、空にでも、地にでも
どこにでも行ってみろだ

一巡りして元の巣に戻ろうと、戻るまいと
それはそれ

どうにでもなれ、と口ずさみつつ
至極丁寧な仕事をやらかしたり
素晴らしい花を活けたりすることがよくあるのだ




【近作】(2009.6.26)

 
朝日

五月、その強烈なエネルギーが
窓を突き抜けてくる
まだ五時だというのに

金色の、原初の太陽が燃えさかる
そのままの荒々しい混沌の炎の矢が
真っ直ぐに放たれる

太陽は今
壮年期にさしかかったばかりで
なんともやんちゃな暴れん坊だ

勢い余るエネルギーを
持て余し気味に
さあ、これからどんな冒険を
楽しもうかとルンルンだ

五月の朝の窓に炸裂する
光の玉の荒々しさは
彼が四囲に向けて発する雄叫びであり
彼に与えられた激しい生の
燃焼でもある

五月の朝の
全てを燃やし尽くさんばかりの
やけに明るい混沌の炎の色を
指笛を鳴らし、迎え、喝采しよう

太陽よ、大志を抱け
真っ直ぐに、荒々しく、洋々と
愚直そのままに生き抜け




【近作】(2009.6.22)

 


雨はどこから降るのだろう
と目を凝らして見上げていた頃がある

空から、いや雲から、と教わった

空をじっと見上げた
次に、雲を何時間も追いかけた

しかし、何度見ても空も、雲も
雨粒を放っているようには見えなかった

氷のようなものが、途中で溶けて
雨になるのだとも聞いた

となれば、バラバラと空中に氷を放つ
威勢のよい掛け声が聞こえてきても
よさそうだ

雨はどこから降るのだろう

もの思いに沈んでいるときに降る青い雨
ダンスでもしたくなるような甘い雨
雨蛙の合唱につられて降り出す頓馬な雨

赤や黄色のパラソルによく映る雨
谷合いの橋を横切る静かな雨
紫陽花の葉をカラカラ揺らす白い雨

雨はどこから降るのだろう
と今も目を凝らして見上げている




【近作】(2009.6.21)

 
世界のどこかで

体に爆弾を巻き付け
多くの人で溢れかえる建物に突っ込み
自らの血肉とともに
数え切れないほどの人々の血肉を
一気に吹き飛ばす

そのとき自らの魂は
どこでなにをしているのか
吹き飛ばされた多くの人々の魂は
どこからどこにいったのか

いったいこれはなんだ
神がそんなことを命じたというのか
部族の威信をかけて
なにかを得ようというのか

欲か、徳か、正義か、恨みか
英雄になるためにか

体に爆弾を巻き付けるとき
天の声は聞こえなかったか
母の声は聞こえなかったか
恋人の声は聞こえなかったか

敵討ちの敵討ちのそのまた敵討ちの
敵討ちではないのか
爆弾を巻き付けるためだけに
生まれてきたというのか

体はうち震えなかったか
心はうち塞がれなかったか
流す涙は枯れ果ててしまったのか

戻ることのない車が動き出したとき
故郷の川のせせらぎは聞こえなかったか
恋人の声は聞こえなかったか
母の子守歌は聞こえなかったか
天上の音曲はなにも聞こえなかったか




【近作】(2009.6.20)

 
飛行機雲

西の空に飛行機雲が一筋
直線の形はなく
かなり周囲の雲や空と
重なり合って
あわあわとしている

それでも飛行機雲
最初は青空を突っ切り
凛と伸びていたのかもしれない
青空の一画に
なにかの明確な意志を
くっきりと
描いていたのかもしれない

いうなれば初老の飛行機雲
足取りは不確かで
背中もいささか丸く
頭に至っては白いものが
ザワザワ揺れる

それでも飛行機雲
周囲の綿雲に呑み込まれる
ことを潔しとせず
折りからの風に吹き払われる
ことを頑固に拒んでいる

西の空に飛行機雲
山の端のあたりまで
よろけ辿り着いた恰好なのに
その目は変わらず
天空の頂を睨んでいる




【近作】(2009.6.14)

 
木漏れ日

若葉で蒸し返りそうな林を歩く
上着を脱いで額の汗を拭う

スギやヒノキやクスの大木に混じって
モミジやケヤキやツバキの若木にも
新芽がびっしり伸びている

人里からほんの一跨ぎしただけの
距離にしかすぎないのに
林特有の涼やかな気に満ち
林でしかない匂いを十分に発している

微かに風が抜けていく
木漏れ日が緑色の光となって
さらさらとこぼれている

林は心地よいから
思い切り伸びをする
そうすると尻のあたりがむずむずと
緊張する

抱えてきた鬱々とした気分も
林の気に身を委ねていると
なにやら懐かしい
はるかな思いに変わっていく

木漏れ日の特にさらさらと
こぼれるあたりに
ふいに湧き出てきたのではないかと
思われる小さな水流

苔むした小石の間を
ちろちろと日の光を透いて流れる

スギやヒノキやクスの大木が
高く広く枝を張り
その枝々をくぐってきた木漏れ日が
モミジやケヤキやツバキの若木の
黄緑の葉をさやさやと揺らし
鮮やかに照らし出している




【近作】(2009.6.10)

 
パソコン考

降って湧いたような話だ
昨日まで軽やかに文字を刻み
計算をし検索をしてくれていた
パソコンソフトが

朝一番のお決まりの作業で
立ち上がらない
横文字のなにかのメッセージが
ちらちら出ているが
なにが問題なのか
なにが不満なのか

仕事の必要上
どうしても動いてもらわねば
ならないものだから
急遽アンインストールと
インストールの繰り返し

こちらが焦っているとみると
相手もここぞとばかりに
ストライキを決め込むつもりらしく
IT専門用語らしいメッセージを
立て続けに発し
睨み付けてくる

仕事の必要上
どうしても動いてもらわねば
困るのだ

ほんの昨日までの
あの機嫌のよさはなんだったのか
OFFにするときだって
ひらひらと手の平をふり
じゃあまたねという合図を
見せてくれたのではなかったか

それとも
日頃からそれとなく
ノーサンキューなどという
合図を送っていたのかもしれない

馴れ合ってしまい
相手の表情を読み取ることさえ
怠っていたと
いうことなのだろうか

パソコンという
このちょっと気難しい淑女は
あんたの顔を見るのも大嫌い
というセリフを
ときおり気まぐれのように
吐きたがるのだ




【近作】(2009.6.9)

 
インフルエンザ考

ものものしい防毒マスク
に身を包み
航空機の中をチェックする

水際作戦に失敗すると
今度は外国旅行者か
外国人かとくる

国内感染が明白であるのに
まだ懲りずに外国旅行者や
外国人を追跡する

どこの学校のどこの何人が感染と
島国ならではのトップニュースだ
誠に極上サービスこの上ない

この報道によって
犯人に仕立て上げられたり
近所からいわれのない批判や
指弾を受ける人々があることに
はたして思いをいたしたり
することがあるのだろうか

この国の役所に
この国の報道姿勢に
はたして真を感じ得るだろうか

無責任な責任逃れの
バラエティーの延長の
まるで天が降ってくる式の
無軌道ぶりではないか

勿論もう間近に
天が降ってくるに違いない
その真の時を
心を空しうして知るべきだ



【近作】(2009.6.8)

 
光さす

天上からの真白な光に
洪水のごとく惜しげもなく
降り注いでくる光に
そのまま打たれるとき
天上のものと一体となる

天上からの光は
常に降り注いでいるというのに
頭の中に黒雲をつくり
疑念という嵐を起こし
怒りや我欲や迷いを発し
頭の上にコンクリートの覆いを
こしらえてしまう

天上からの光は常に変わらず
まことに清らかに降り注ぐので
欲得でしか動くことのない身には
眩しすぎるのかもしれない
あるいは信じられず
見ることができないのかもしれない




【近作】(2009.6.6)


 
泣いてどうなる

このようなときに泣くなど
見苦しいではないか
何度も忠告がなされて
きたではないか
その意味を解せず
ひとりよがりに動き
いきなり首になったなどと
わめくではない

その兆候は幾度もあった
相手の出方を非難し
受け身にばかり動いていては
来るべきものがやって来る

恨むなどという
ますます己の度量を引き下げる
ようなことではお粗末だ
恨みが恨みを呼ぶという
連鎖の中に閉じこめられて
しまうだけでしかない

相手のことを許せ
相手の非があれば許せ
相手の横暴を許せ

その前にお前が
相手に感謝しろ
お前を根底から変える
大きなチャンスを与えてくれた

少々痛いが
これはラッキーだ

前を見ろ
しっかり前を見ろ
目を背けることなく前を見ろ
大きなチャンスなのだ
千載一遇のチャンスなのだ



【近作】(2009.6.4)

  
ありがとう

やさしくしてくれてありがとう
助けてくれてありがとう
怒ってくれてありがとう
絶交だといってくれてありがとう

口惜しかったこと
身も世もあらぬほどに嘆いたこと
心底から怒り狂ったこと
勘違いが発端で憎まれたこと
大切なものを取り上げられたこと

振り返ってみれば
こんなにたくさんの
私を取り巻く人々がいて
私になにかのアクションを投げ
私にいろんなことを考えさせ
私のてっぺんをへこませてくれた

こうも考える
あんなにも言いにくいことを
それが例え感情を交えた仕打ちであれ
本心からの憎しみであったにしろ
真剣に言い募ってくれた

振り返ってみればこそ
あの冷たい言葉が
私を激怒させ
私を踏みとどまらせ
あの嫌味あふれる仕打ちが
めぐりめぐって
私のことを他人の身に振り替えて
考えさせてくれることになった

時を経て今、それらを
私の心に伝えてくれようとしている
いや、ようよう私が気付きつつある

まるで螺旋階段のようだ
本当に精巧に仕組まれたドラマだ
私が吐くべきセリフは
「ありがとう」の一言と
「申し訳ない」のもう一言だ




【近作】(2009.6.3)

 
紫陽花

今年も門口に
凛と、紫陽花が咲いた
青、紫、赤、白

−移り気、高慢
美しいが冷たい
辛抱強い愛情

花言葉を見れば
いかにも、と思わせる

落ち着いた青い花弁は
分別を十二分に持った
淑女というところか

頬を赤らめた赤い花弁は
恋する乙女か

紫色の花弁はといえば
妖しい魅力を湛えた
傾城なのかもしれない

白色の花弁となると
哲学者の風貌を持ち
軽々には近付きがたい

これらは
月並みな比喩に過ぎないが
花言葉はさすがだ

門口の紫陽花に見送られ
背筋をしゃんと伸ばし
今朝も一歩を踏み出す

(付記)
 花言葉―花言葉事典(web)を参照



【近作】(2009.6.2)

 
星降る

都会の灯りの届かない
漆黒の闇では
星が間近にある

手を伸ばせば届きそうな
ところに浮かんでいて
よくお喋りをする

だって、ほんのすぐ近くだし
囁き声でだって相手に届く

この頃人間はおかしくないか
まあ、昔からちっとも
変わりはしないな

どうしたら、ああも強欲で
横暴で、冷血を貫けるんだ

あんまり見境がつかない
ままだと
今度もリセットだな

星たちの話題は尽きない
だって、星たちは
ほんの近くの距離から
何でも見てるし
何でもよく知っている

今夜も星たちのお喋りで
闇はぎらぎらに輝き
陽気な星たちは
上に、下に、斜めに
時間、空間を突き抜け
気の向くままに
滑空を楽しんでいる




【近作】(2009.6.1)

 
明日はいいことがある

八十二歳で逝った義母の口癖は
明日はいいことがある、だった

透析で週の半分は入院
甘いものには目がないのに
糖分、カリウム、カルシウムの
厳しい制限

六十キロ近くあった体重は
三十キロを切る有様で

それでも、娘の押す車椅子で
食事に、ショッピングに
勇んで出かけていった

いささか、我が儘な気はあるが
負けず嫌いで、他にふるまうことが
何より好きで

数年前までは
ロシアやポーランドや、中国にまで
絵筆をもって、ひょいひょいと
一人で出かけていった

七十半ばでパソコンに出会い
幾度も周囲の手を煩わせながら
牛乳瓶の蓋みたいな眼鏡に
天眼鏡を持ち出し
ちゃんとメールの交換をしていた

人の出来ることは、自分も出来る
という無茶な言いぐさも
いつか無茶でなくなり
暗算は計算機より早く
小説を書いて一等賞をもらったり
エッセイで賞金を稼いだりした

死の床でも
明日はいいことあるんやろ
と呼びかけると
意識のない筈の手や足が
小刻みに震えた

義母が逝って三年
明日はきっといいことある
とでも言わないと気が詰まりそうな
空気が漂っている

今度こそエッセイで一等賞を取る
と準備していたノートに
病室の仲間たちのスケッチが
今にも笑い出しそうなふうに
生き生きと描かれている




【近作】(2009.5.30)

 
光あれ

光あれと願う
世界が限りなく
一つに近くなり
距離も著しく
縮まったというのに

宗教や民族や部族の
主張激しく
こうも排他排斥ばかりに
躍起になっているのは

単なる
わがままではないか
単なる
仇討ちに過ぎない
ではないか
単なる
もの盗りに過ぎない
ではないか

そんな
怪しげなものを
画策しようとする旗の下
己の意見を
しゃりむりに
押し通そうとする

確かに
幾世紀もの間
弾圧や搾取のときを
経てきたのかもしれない

今もいわれのない差別や
殺戮に見舞われて
いるのかもしれない

しかし
他を抹殺せよと
真の神が命ずるであろうか
目には目をと
真の神が命ずるであろうか

光あれ
光あれ
光あれかし

この哀しいものたちの
迷える魂を
光よ照らし
道筋を真っ直ぐに
整え示したまえ




【近作】(2009.5.29)

 
主張などなく

いきなりフラッシュでも
焚かれるように
思い出した

主張を貫き
激しく言い募って
意固地になったときの
ことを

なんであんなにこだわり
激しく詰め寄り
詰め寄られたりしたのか
いったい
あれはなんだったのか

今となっては
忘れてしまい
細かくは思い出せもしない
というほどのことに
なんで
身も世もないほどに
うろたえ
こだわったのか

それらの殆どは
主張なんてものの
体をなしていない

行きがかり上
感情だけが走り
激昂の余り目の前の階段を
脈絡もなく駆け上った
というだけのことなのだ

主張なんてものではない
とてもそんなしゃれた
ものではない

しかし
今もまだ続いている

真っ直ぐに歩めば
よいところを
真っ直ぐに歩まねば
ならぬところを

余所の方向に
いたずらに目を移し
落ちつきなく
手綱を引きちぎり
激しく吠えたて
駆け出してゆく

意気地のない犬に
なりきってしまったりする



【近作】(2009.5.28)

 
応援歌

新入社員のみんな
この世界大不況の中
めでたく入社の身とは
なったものの
理不尽な扱いに
悩んではいないだろうか

内定取り消しという
道の替わりに
新入社員とはなったものの

即戦力とならねばならない
即断即決をせよ
仕事の覚えが遅い
ケアレスミスが多い
到底将来の見込みがない

などという口説で
巧みに片隅に追いやられ
試用期間なのだから
後一月の間に
かくかくしかじかの
ノルマが達成できねば
どういうことになるのか
わかっているだろうね

と詰め寄られたり
念書にサインをさせられ
たりする

どんなに懸命に働いても
どんなに右往左往しても
誰に助けを求めても

職場が職場でなく
死刑という判決が
先にありきの
首狩り場にはなってはいない
だろうか

なんだかそんな気がする
のは気のせいだろうか

もっとも
確たる話ではないので
杞憂であればいいのだが
追い出すつもりの
新入社員雇用という
作戦があるやにも聞く

全くの杞憂であれば
いいのだが

いまどき
ぶっそうなことばかりが
平気でまかり通る

万が一そんなことで
あったりしたら
新入社員の諸君
君の評価を
空の神に委ねたまえ

君自身で
鬱々と抱え込むことだけは
必要ないことだ

卑怯な作戦のもとに
一人や二人の人間が
君の人格について
とやかく言おうとも
その卑劣な悲しい相手の
ことを憐れみ
全てのことを
空の神に委ねたまえ



【近作】(2009.5.24)

 
五月と雨

五月の雨もいいものです
礫のように落ちてきたかと思うと
からりと日の光が覗いたりします

靄のように霞んだり
肌にやんわりと
まとわりついてきたりします

それが
決して鬱陶しくない程度で
移りゆきます

雨もよし
風もよし
日の光もよし

川では小さな魚や
巨大な金鯉や
亀や家鴨がはしゃいでいます

五月の雨もいいものです
川べりを
雨礫に打たれながら
人々が声をあげ駈けていきます




【近作】(2009.5.23)

 
癇癪

誌の編集という初めてのことを
素人がやるということでか
苦情が多い

割付が悪い
※字の×行でやってくれ
スペースのとりかたを変えてくれ

カットが悪い
イメージと違う
※×のイメージでやってくれ

それらはなぜか決まって
依頼した内容とは違う内容で
提出されたり
期限を過ぎたりして出された
場合によくある

こちらの思い込みが強すぎるのか
説明が悪かったのか
足りなかったのか
と考え込んでしまう

素人がやる誌の編集なので
まず自分のミスの方を
先に詮索してしまうことになる

それにしても
※字の×行やカットへの拘りが
なんなのか
なんともわからない

一つの風景が
それぞれには異なった見え方をする
というのはわかるとしても

それにしても
同じ素人のもの書きの
土壇場の激しいパワーには
信じがたいものがある

大切なのは大地であり
そこに根付いた樹木の幹の太さや
枝々の張り具合の方ではないのだろうか




【近作】(2009.5.18)

 
眼鏡

眼鏡をかけ始めて三年になる
百円眼鏡から始めて
せいぜい五千円のやつを
十本はもっている

眼鏡など不要だ
と最近まで本気で思っていた
パソコンにかじりついても
四時間近いナイターを
毎日のように観ても

新聞も読めるし
山の頂上の測候所の屋根色まで
くっきりと見えていた

ところが
自分の書いた字が読めない
手元の文字が霞んでしまう

会議中
記録を朗読しながら
何度目をこすったか

それでも外に出れば
百メートル先の看板がはっきり
読み取れる

老眼という響きが
とにかく好きになれなかった

仕方なく手にしたものの
眼鏡というものは
ただかければよいというのではない
と始めて知った

鼻当てがずれる
レンズが目の前にうまく収まらない
耳にうまくかからない
どのフレームも
狐目になるように反っている

そうなると
鼻当ての調整にペンチを用い
角度の調整に接着剤を流し
力まかせにフレームを曲げる

調整をする度に
かけたりはずしたり

手が滑って
レンズをヤスリで削ってしまったり
伸ばしたり縮めたりしているうち
鼻当てがポキリと
折れてしまったりする

そんなこんなで
意地の張り合いになり
いつの間にか
十数本にもなってしまった

結局目の前の字を読むとき
かける一つがあればいいのだから
十本をどう使うのか
このことが
今の大問題になっている



【近作】(2009.5.16)


 
五月の雨

鍼師に調子を尋ねられ
五月は朝日が強烈で
あまりの強烈な光の明るさに
ときならぬときに目覚めてしまうから
リズムが変になる
という類のことをいったことの意味に
後になって気付く

光ということばは
禁句だった筈だ

他意は全くなかったのだが
いつも間髪を入れずに戻ってくる
鍼師の返事に
微妙なためらいがあったことに
すぐには気付かなかった

多分これらに近いことを
多くの場面で行い
多くのことを
そのまま見過ごしているのに
違いない

侘びを言っても
始まらないのかもしれないが
なんとも心苦しい
謝れば済むのだろうかと考えれば
そう単純な話でもない筈だ

そもそもが
相手を傷付けないように
という思い自体に
傲慢な思いが半分以上は隠されている
のではないだろうか

思いやことばや態度は
慰めにもなる代わりに
思わぬ武器にもなってしまうことの
なんと多いことだろう

それにしても今日の雨
五月に入って何日目の雨だろう
強烈な朝日の洗礼を浴びることなく
ほの暗い中で目覚めたとき
やはり同じ早朝の四時だった

ということは
条件反射という類のこと
であるのかもしれないが
どんなに朝日が強烈であろうと
音のない静かな雨が降っていようと
リズムを感知しているのは

自分自身の中にあって
方向はこうだとか
こうすればいいのだろうとかの
判定にしゃしゃり出ようとしたがる
目立ちたがり屋で気まぐれの
やじろべえのような
ものであるのかもしれない



【近作】(2009.5.13)


 パソコンは

パソコンはやはり難しい
どこが難しいのかをお互いが
わからずに進めてしまうという仕儀で
これがなんとも始末に悪い

これをこう頼んだつもりが
あれをあんなふうに頼まれたつもりが
それぞれがてんでに違う道を
平気で歩いている

その食い違いが生じても
まるで説明に窮する
説明する本人のことばが相手には
相手の良識をもってしても
通じない
のかもしれない

どんなに言葉を尽くしても
どんなに具体的に話したつもりでも
なにかが足りない
なにかが妙だ
なにかが食い違ってしまう

例えて言えば
一つの山を見上げ
一方は英語で
一方は日本語で
顔を見合わせ互いに笑顔で
話し合っているようなものだ

ということは
原初の人々は
つまりパソコン用語を話すように
ちぐはぐなことをやりながら
ちぐはぐな方向に
向かって歩きながら
言葉を作っていったのだろうか

夥しい年月を重ね
夥しい生まれ変わりを重ねながら




【近作】(2009.5.9)

 
五月の朝

朝まだきに目が醒めます
三時とか四時
新聞配達のバイクもまだです

この時期
東に開いた小窓に
昇りはじめる前の朝日の礫が
強烈なプラズマのような
光をピンポイントに絞り
狙い定めたかのように
投げ入れてきます

何年前のことか
この家に越してきた五月の朝
あまりにも赤々とした
熱い光がどっと射してきたので
カーテンを開け放したまま
眠ったのかもしれないと
飛び起きました

日の当たる家
日の出の勢いの光のシャワー
を浴びる部屋

形容はいかようにでも
できますが
カーテンを貫いてくる
獰猛なまでの
光のエネルギーの
凄まじさのことを
説明するのは難しいものです

例えていえば
光を受けた部屋は
真昼の部屋より数十倍も明るく
ギラギラ熱く強く輝き
それこそ眠気など
根刮ぎ剥ぎ取られてしまいます

遮光カーテンに替えてさえ
獰猛なシャワーの力は
まるで衰えません

一度覚えてしまった体は
もう日の出前には
すっかり起き出します
起きて朝の息吹を
聞くときもあります
寝不足にふらついて過ごす
こともあります

五月の朝は
今年もきっかりの時期に
きちんとやってきました

嬉しいことです
寝る前からワクワクして
朝まだきには目が醒めます
三時とか四時です
新聞配達のバイクも
まだまだやってきません




【近作】(2009.5.5)

 
風翻る

よい季節です
侘助の新芽は淡く
葉に小さなギザギザが
ありますが
新芽を迎える先輩の葉は
つるりと光っています

この先輩の葉たちが
白い小ぶりの
可愛い花を
幾つも幾つも
咲かせてくれました

よい季節です
淡い緑の新芽は
折りからの日に
透き通りそうに輝き
初めて見るこの世の景色に
いく分驚いた表情を
見せています

先輩の葉たちが
なにも心配いらないよ
君たちの力で
白い小ぶりの
花を咲かせるまで
きっと協力するからね
と囁きかけます

よい季節です
うらうらと射す日に
とても恥ずかしそうに
新芽が顔を火照らせています
とても嬉しそうに
涼し気な風を受けています




【近作】(2009.5.2)

 
インフルエンザ

鳥インフルエンザの次は
豚インフルエンザだという

空港や街中で
マスクをかけた人を多く見る

防御のためとはいい
ギョッとするのは否めない

顔が見えない
表情が見えない

サリン事件のときのような
防毒マスク姿を思い浮かべる

必定というべきか
異常というべきか

人はこれまで
空気や水はただなのだ
と思ってきた筈だ

水がダメ
空気がダメだとなると

次はなんだと
つい考えてしまう

復活の日という小説があった
私ももの心つくころから
同様の光景を
夢の中で何度も見た

これは何だ
これはどういうことだ

マヤやインカの礎石群などは
いったい何を語っているのだろう

マスクで溢れた街中の
表情のない人の目の色に
会うたびに

クラクラした目眩に襲われる
のはいったい何だろう




【近作】(2009.4.27)


 
クローバ

雨があがり
川面が涼やかになった
日を受けた水が
川底を透いて流れる

かすかに渡る風に吹かれ
絹のような水の肌が
川中にできた島に
とろとろと寄せる

青い島に白い靄がかかり
静かに寄せてくる水を懐に
やさしく呼び込んでは
サラリとかわす

白い靄は白詰草
そう、群生するクローバだ
花言葉は約束
私を見て、ともある
あるいは復讐、だとも

絹のような水の肌に
なにを約束し
なにを復讐しようというのか
そんなに見てほしかった
ものはいったいなに

いつか皇居の堀端にも
なにかの意志を持つもの
のように
空の色に繋がり
煙るように群生していた

いま雨に洗われたクローバは
静かに寄せてくる水を懐に
やさしく呼び込んでは
それこそ水に流していく

約束
私を見て
復讐

クローバはこれらの
全てを遂げるため
川中にできた島や堀端に
白い靄のように咲き誇り

とろとろと寄せる水に
茫洋と思いをいたし
はるかな胸を開き
一時の火照りから冷めかけた
身を浸すのかもしれない

(付記)
 花言葉―花言葉事典(web)を参照



【近作】(2009.4.25)

 
少年A

人が恋しいと思い始めた頃
少年は厳しい掟のなかにあった

島を出てはいけない
街を見てはいけない

少女はバスガイドをしながら
高校に通っていた
少年はときどき少女のバスに
乗り合わせた

少女のはにかむような笑顔が
見たくて
少女の毬のようにはずむ
声が聞きたくて

島を出てはいけない
街を見てはいけない

少年には未来への扉が開かれて
いないとしか思えなかった
少年は町役場の支所で
連絡係をしていた
殆ど一日口をきかないこともあった

少年への掟は物心ついたときから
課せられていた
島を出てはいけない
街を見てはいけない
長男なのだから

少女のはにかむような笑顔が
見たくて
少女の毬のようにはずむ
声が聞きたくて

一時間の時間をやりくりして
少女のバスに乗った

少女が街の専門学校にいく
ということは噂で知れた
バスの乗客のみんなが
少女のファンだった

島を出てはいけない
街を見てはいけない
長男なのだから

少女の卒業式が近づいた朝
少年はある行動に出た
細い切符に
かすれるような鉛筆の字で
ありがとう
と書いて

バスを降りるとき
少女の目に触れる近さで
切符を渡した

島を出てはいけない
街を見てはいけない

少年は後も見ずに
支所までの八百メートルの砂利道を
全速力で走った



【近作】(2009.4.15)

 
飛行機

好きな飛行機に
乗れない期間が続いた

二十年前
久住山上空での乱気流に
乗客みんなが叫び
躍った

別府から福岡までの
わずかな距離の
わずかな時間の筈が
永遠の拷問のようだった

予兆はあった
職場旅行に
飛行機でもあるまいに
墜ちたら職場は全滅だよ
と笑い合った

出発が一時間も遅れた
シートベルト着用のサインが
いつまでも消えなかった

数十メートルも
一気に落ちたかと思うと
次の瞬間には
その二倍もフウッと上る

という有様で
久住の山並みを下にして
視界にはなにもない
なにも見えない

まるで紙飛行機が
風のままに流れていくように
飛行機はあてどなく
ゆらゆら
ふらふら揺れ流れた

その度にみんなは
薄い板底の真下の
荒れ狂う空気を力の限り
足で踏みしめ
力いっぱい突っ張り
両手を組み
わなわな震えた

叫ぶとか
泣くとかの気色はなく
呻いたり
ゲイゲイ吐いたり
冷や汗だらけになり
足で踏みつけ
力いっぱい突っ張り
両手を組み
がたがた震えるばかり

とにかくシートベルトの
着用サインが消えることなく
ようやく
別府から福岡まで
流れ流れて
なんとか辿り着いた

ところが
辿り着いた筈の飛行機が
空港上空を回る

福岡空港の上空を
ぐるぐるぐるぐる
果てもなく旋回した

着陸許可が下りないという
実際は三十分かそこらの時間
だったのだろう

飛行機が着地したとき
歓声も拍手も
あがらなかった

顔色は真っ青だった
みんなの顔も土気色で
シートベルトを外し
よろよろと立つ

もう
嬉しいとか
安堵したとかいう
表情を出そうとすることさえ
忘れて



【近作】(2009.4.4)

 
花の絨毯

遊歩道に花弁が散り敷き
一夜の雨に濡れそぼる

浅い川原に花弁が散り敷き
川面はさくら色に染まる

校門に花弁が散り敷き
休日の門が花の香に埋もれる

廃屋の屋根に花弁が散り敷き
折りからの風に舞い上がる

南の風に花弁が散り敷き
恋人たちを眠らせる



【近作】(2009.3.29)

 
花の宴

花が咲いた

公園に
遊歩道に
キャンパスに
山の中腹に
海沿いの道に

煙るように白い
花が咲いた

幼稚園児が
新社会人が
老人が

病室の窓から
病み呆けた男や女たちが
黄昏時にアベックたちが
段ボールの隙間から
髭面の男が

花を見上げ
花を見つめ
花吹雪を浴びる

一年に一度の
晴れがましい花の宴に
おそらく誰もが
晴れ着に身を包み
おそらく誰もが
心の晴れ着に身を包み

花の喜びの席に座り
花の歌を聞きたいのだ

風は冷たく
理不尽にも風にさらされ
雨にうたれ
雨に穿たれ

花も男たちも
花も女たちも
うち叩かれたりすることは
先刻承知のうえだが

一年に一度の
晴れがましい花の宴に
おそらく誰もが
精一杯の晴れ着に身を包み

花の喜びの席に連なり
花吹雪の歌を
光煌めく歌を
喉の奥から歌いたいのだ



【近作】(2009.3.20)

 
春も来い

春よ来いと歌う
春はのどかで叙情的で
その兆しが見え始めると
万物は歌い出し
枯れ木もチューリップも
あめんぼうも
足踏みして待ち望んだものだ

今は
春も夏も秋も冬も
境があわあわとして
冬の領分だと思われる時期に
桜が咲いたり
コスモスが咲いたり
蛙が歌ったりする

季節なんて
もともとそんなものかも
知れないが
暖かいと無性に嬉しく
なってしまうから
現金なものだ

温暖化だの
極地の氷が溶け出しただの
理屈ではわかっているのに
暖かそうな兆しが見えてくると
頬が弛んでしまうのだから
しまらない

霞がたなびき
木蓮が咲き
雪柳が咲き乱れ
紅葉や梅や桜の芽が
一斉に芽吹こうとタッタラ
タッタラとラッパを鳴らし
地中の水分をギュウッと
吸い寄せようとする
準備に余念がない

もうすぐ
入学式が行われ
学校は子供たちの群れで
溢れかえる
九十度に腰を折り曲げた老人が
日向でほんわり欠伸をする
こうなるとどうにも
頬が弛んでしまうのだから
しかたがない

暖かいことで
頭を抱え込むなんて
ひねくれた詩人気取りにまかせ
今日は今日
今は今
春よ来い
春も来い
やっぱり暖かいうらうらした日向よ
早く来い



【近作】(2009.3.15)

 
歌いたければ

歌いたければ歌うがよい
グループがなんであれ
チームがなんであれ

ハーモニーが必要であるのなら
グループもチームも選別すべきだが

本当に歌いたければ
野原ででも川原ででも歌うがよい

ましてや今
シンガーソングライター募集中

であるのなら
まず歌ってみることだ

もちろん
歌いたければの話だが

もちろんどんな舞台で
どんなかたちで歌うのかを
知る必要はあろうが

しかし
まず歌ってみなければ
話にならない

本当に歌いたければ
野原ででも川原ででも歌うがよい

ただ今
シンガーソングライター募集中



【近作】(2009.3.7)

 
水仙

うぬぼれ、自己愛、エゴイズム
神秘、尊重
私のもとへ帰って、愛に応えて
尊敬、心づかい―

花言葉だという
庭の隅に健気に咲いている水仙の
香しい、慎ましい香りが
そういうメッセージを醸すのだろうか

寒い朝
ひっそりと白い花弁を開き
人々の足元に蹲るように
咲いている

清楚で、ひかえめな花弁の様は
自己愛やエゴイズムという言葉に
一脈通じるものがある

踏まれ
気付かれず
生娘が放つような清々しい香りにも
振り向かれないときであろうと
気丈にすっくと立つ

実は、愛に乾いているのかもしれない
憂いをいっぱいに溜め込んでいるのかも
しれない

しかし、なりふり構わず
泣いたり笑ったりということをしない
かといって、ただ
耐えているだけというのでもない

やっぱり
自己愛に裏打ちされた
神秘の強い力を秘めた
涼やかな仙境に凛と咲く花なのだろう

(付記)
 花言葉―花言葉事典(web)を参照



【近作】(2009.2.28)

 
宴だ

十五パーセントにも満たない支持を得て
新たな誌誕生なる

最盛期の二十五パーセントにも満たない数で
新たな誌誕生なる

しかし、これらは頭数だけのこと

中身はといえば
百パーセントを超えているのかもしれない
いや、ゆうに二百パーセントを超え
芳醇な美酒を湛えた
湖であるのかもしれないのだ

今、新たな誌の誕生の前に
実に麗しい
実に色鮮やかな
甘露ともいうべき酒で満たされた杯を
恭しく
高く、高く捧げる



【近作】(2009.2.21)

 
表現

難しいと思えば
これほど難しいものはない

それも、なんのために表現するのか
となるとやっかいだ

文芸面に限っていえば
表現したいからするのであり
なにをどう表現するのか
と問われると
もう立ち止まってしまう

そんなことを
表現してよいと思うのか
そんなことが表現であり得るのか
そんな表現が許されていいのか

などと質問攻めにあい
あるいは詰問となり
あるいは完全無視となり
あるいは恫喝となる

表現することとは
単にぺーパー上に文字を並べたり
巧みに文字を操ったり
することだけではないだろう

思い、語り、文字にすることで
他の目に止まるようにする
ことには違いないが

思い、語り、文字にするときには
ぼくらを包む天の波動の中に
それらを既に
きっかりと放出しているのだ
そう思う

はたして
表現してもよいのか
そんな表現が許されてよいのか
そんな稚拙な表現でよいのか
などという問題は残るが

天に向かって
己の思いを突き上げ
思いを刻み込むのだから
もう、おずおずと遠慮などせず
思い切ってやってみればよい

思い、語り、文字にすることで
天に向かって
己の思いのたけを
存分に語ってみるがよい

ぼくらがなにを思い
なにに泣き
なにに嬉し涙を流しているのか
存外天は知りたがっているの
かもしれないのだ



【近作】(2009.2.14)

 
呪文

書けない書ける
書けない書ける
書ける書けない
書ける書けない
呪文のようだ

いったい
ことばはどこからくるのか

心の隙間に
ポトリと落ちてくることば
たまたまそれを拾う
ときもある

街中や職場で
無数のことばが行き交い
無数の思いが乱れる
その中にこぼれていることば
たまたまそれを拾う
ときもある

好きになったり
僻んでみたり
憎まれ口をたたいてみたり
その間にこびりついていることば
たまたまそれを拾う
ときもある

かんかんがくがくの
議論をしたり
殴り合いの様相をていしたり
その後に捨てられたことば
たまたまそれを拾う
ときもある

いったい
ことばはどこからくるのか

書ける書けない
書ける書けない
書けない書ける
書けない書ける
呪文のようだ



【近作】(2009.2.11)

 
合格

合格という知らせ
おめでとう
いよいよ高校生だ
いよいよ巣立ちのときだ

カンパスに
いろんな色を塗るんだ
いろんな色をね

いろんな風の匂いを
嗅ぐんだ
暖かい風や
冷たい風もあるけど

いろんなことが待っている
いろんなことがね

贈りたいことばがある
どんなときでも
歌を忘れないでね
どんなときでも
楽しい歌を忘れないでね 

いろんなことが待っている
きっといろんなことがね



【近作】(2009.2.7)

 
メジロ

ガラス戸の向こう
一メートルほどのところに
いつもメジロがやってきます

侘助の白や
山茶花の赤の
花弁を目当てに来ている
ようです

メジロは緑色の羽を
せわしなく自在に震わせ
紫色の嘴で花の芯をつつき
枝から枝へ
素早く動きます

きょとんとした顔が
愛嬌いっぱいで
一瞬なにかを考える仕草になり
すぐに結論を出します
目玉を賢しげに
前後左右に動かし
なあお前もそう思うだろう
というふうに問いかけてきます

一羽が去ると
すぐに二羽目がやってきます
侘助の白や
山茶花の赤の花弁は
「今度はこっちだ」
「こっちの方が汁が甘いよ」
「サンキュウ、またね」
「きっと、また来てね」
とでも言い合っているみたいで

メジロはそのたびに
親しげなウィンクを
パチパチと何度もします
侘助も山茶花も
朝日の中ピンと鮮やかに輝り
とても誇らしげです



【近作】(2009.2.1)

 
「月とつばめ」ほかに寄す

〈ツバメの声と草いきれ‥〉
〈あといくつこの月を背に‥〉
〈ある日わたしはなかったものに‥〉

詩集をいただきました
喉の奥から絶え絶えに紡ぎ出される
ゆらゆらとしたことばは
私の心をこうも切なくします

息をするだに苦しいのでしょうか
ことばを紡ぐことが今
それほどに気怠いのでしょうか

〈田圃の傍の白い花を見つめながら‥〉
〈生きている意味をも失う瞬間がある‥〉

白い詩集の可愛らしい装丁のなかに
驚くほどの余白が
ぎっしり埋め込まれています

〈ツグミは何でか分からない‥〉
〈わたしも何でか分からない‥〉

痛々しさを覚えるのは
私の単なる思い過ごしでしょうか

私の胸の奥の声がわなないています
この錆びた時間が早足で過ぎ去るのを
ひたすら待っています
じっと立ち止まったままで
私は決然とひたすら待っています



【近作】(2009.1.25)

 
夢一夜

ふいに夢一夜という歌の一節が
浮かんできた

この頃なんの予告もなく
メロディだけが浮かんでくる
はてなんという歌だったか
ということになる

オカリナを始めて三月
運指を間違えれば
頭の中のメロディは砕け散る
オカリナは侮れない楽器だ

それではとハーモニカにも
手を出した
こちらは全くの自己流だ
目を閉じ音を探し探し
メロディを吹き当てる

オカリナもハーモニカも
中途半端だけれど
これらのお陰なのだろうか
なんの予告もなく
メロディがひょいと浮かび上がる
これは理屈抜きに嬉しい

夢一夜は悲しいメロディだけれど
高音のサビのところがいい
〈ああ夢一夜一夜限りに〉
たとえ悲しいメロディであっても
メロディが体を奏でるということは
理屈抜きに嬉しい
体中がほかほか弾んでくる
なんともなく無性に楽しい


【近作】(2009.1.16)

 
心を透かし見れば

本当の気持ちはと考えて
ハタと行き詰まった
本当の気持ちなどあるのだろうか

笑顔を浮かべているときの気持ち
渋面をつくっているときの気持ち
冷たい視線を投げているときの気持ち
施されているときの気持ち
施しているつもりのときの気持ち

こう書き連ねていたら
とてもきりがない
例えば笑顔を浮かべているとき
涙が出るほど感激しているのかもしれない
追従笑いを浮かべているだけなのかもしれない
相手の口説がただ早く終わることだけを
願っているのかもしれない
本気で殺したいほど憎らしい思いが
せせら笑わせているのかもしれない

本当の気持ちなど
当の本人でさえわからないことかもしれない
ケースによって
相手の出方によって
時間の経過によって
それはめまぐるしく変わっていく
ことになるのかもしれないから

心を透かし見るなんて
こんな難しいことはないだろう
こんな乱暴なことはないだろう

しかし
いきなり爆弾が降ってきたとしたら
嬉しいことだろうか
いきなり仕事を馘になったとしたら
喜ばしいことだろうか


【近作】(2009.1.8)

 
ハーモニカが吹けない

オカリナに手を焼きながら
二ヶ月にして
なんとなくきっかけがつかめてきた
ファミレドシラソファミレドシラの
最後のシラがうまくいかないけれど

簡単な楽譜なら
あまりまごつかずに
済むようになってきた

ところがハーモニカが吹けない
子供の頃
一度聞いたメロディは
たちどころに吹けた
のだったと記憶している

なにせ
理屈で考えるようになってから
音が拾えなくなった

自由に描いていた筈の絵も
屋根は黒か赤か緑だとか
柱は真っ直ぐだとか
そんなことを
考え出すと絵も描けなくなった

文章もそうだ
理屈がついてくると
光るものも光らない
もともと光る筈もないと
いわれればそれまでのことだが

しかしやはり
理屈で文章を刻み過ぎると
バネが弾けて
中身が
どこかに飛んでいってしまう

そうしてみると
オカリナは理屈で吹いている
音を自然に拾うなどという
さまにはとてもなっていない
二ヶ月ぐらいのことで
喜んでいると
屁理屈屋で終わってしまいそうだ

音を拾うようになるには
音の中に住み
音で呼吸をするようにならないと
やはりいけないのだろう

ハーモニカが吹けない理由を
懸命に頭をひねり
理屈で考えている


 
予感

相撲や野球でどちらが勝つか
たいてい予感が当たる

それなら
取り組み前や
試合前に
予想しろといわれる

しかし予感が走るのは
制限時間いっぱいあたりの
両力士の背中の汗の光り具合や
一球の判定によって
急に空気が重苦しく傾きかける
そんな加減で
なんとなく感じる

後説だろうともいわれる
誰だってそうなんだ
ともいわれる

でもやっぱり
これは予感なのだと思う
いや本能が次の瞬間のことを
ほんの一条
垣間見ただけなのかもしれない

もちろん
自分だけの現象ではないだろう
誰にでもある筈だ
この道行きになにが待っているのか
次の瞬間になにが来るのか
それを感じなくては誰も
生き伸びてこれなかったであろう

現代人は
鈍になったといわれる
高度な生活習慣が原因だの
それが原因で退化してきたのだの
諸説紛々だ

でも予感はある
予兆はある
なにかが変だ
なにかがおかしい
その詳しいところが
わからないだけだ
わからないように装い
わからないことをよいことに
臭い物には蓋をして
日々かまけているのかもしれない



【近作】(2009.1.1)

 
元旦に

実によい日和だ
木々の枝に積もった雪を
爽やかな条光が照らす
それは氷砂糖のようだ
それはシャーベットのようだ
一面の銀世界だ

仮設テントでは
突然仕事を失った人たちが
伸び放題の髭面のままで
ポリ容器に配られた
雑煮を無心に食っている

一月前までは
車のドアを
毎日毎日精密機械のように
取り付けてきた腕が
ドアも金具も車も工場も
いっぺんに取り外されたのだ
  
なにを怒鳴っても
なにに地団駄踏んでも
雑煮を無心に食うことしか
他にすることはない

そんな無体な
そんな滅茶苦茶な
そんな無慈悲な
なんて考えるのも根が尽きた

実によい日和なのに
実に美しい銀世界なのに
なにを怒鳴っても
なにに地団駄踏んでも
今は雑煮を無心に食うことしか
他にすることはない



【近作】(2008.12.21)

 
クリスマス

クリスマスも間近だというのに
自爆テロだの
酔っぱらい運転だの
無差別殺傷だのというニュースが
頻繁に流される

街はクリスマスソングで浮き立ち
大売り出しの看板が並び
人はコマネズミのように走り回る

夜を徹しての
仕事に疲れているというのに
メールやファックスで
新たな仕事が降ってくる

あるいは、仕事をもぎ取られ
突然、寒空の下に放り出される
妻も子供もいるのに
いったい、どうしろというのだ

おぼっちゃまばかりの政治家が
理屈だけは通りそうな漫談を
連綿とやらかす

バラエティーばかりが映る
テレビしか他にはないのだろうか
大型スクリーンの前で
人はとうに諦め
ねじけた笑いを浮かべるばかりだ

クリスマスも間近だというのに
押し寄せてくる波に
人はようよう首まで浸かっているが
やがて、その力も失せ
濁流に呑まれていく

なにかが変だ
変ということばは今年を象徴する
ことばだというが
実に変なことだらけだ
やはり、なにかがおかしい

変なことが普通だという
変なことに慣れてしまうと
間隙を縫って
財をやたら積み上げることや
変なことで目立とうとすることに
やっきになったり
うつつを抜かすように
なったりする

命という命が
紙屑みたいに引きちぎられてしまう

クリスマスも間近だというのに
人は、ただの作り笑いが習い性になり
隣がなにをしているのか
なにをしようとしているのか
見ようともしない
見ても、見えないのかもしれない



【近作】(2008.12.5)

 
お菓子の町

ぼくは走った
走れば少しでも近づく筈だ
甘い香りに
甘い喜びに
甘い夢に

ぼくは走った
懸命に走った
走ればきっと少しでも近づく筈だ
少ししょっぱくても構わない香りに
少ししょっぱくても構わない喜びに
少ししょっぱくても構わない夢に

ぼくは走った
信じて走った
走ればきっと少しでも近づく筈だ
あるかなきかの淡い香りに
あるかなきかの淡い喜びに
あるかなきかの淡い夢に

ぼくは走った
へたり込みそうになりながら走った
走れば必ず少しでも近づく筈だ

迷路のようなお菓子の町を
おとぎ話のように飾られたお菓子の町を
ぼくは懸命に顎をつき出しながら
ひたすら信じて走った



【近作】(2008.11.28)

 
もみじ

もみじが赤く色付いていた
もみじが黄色く色付いていた
もみじが青々と茂っていた

同じ日のことだけど
もみじは
赤く、黄色く、青々と重なり合い
天空の真青の海に泳いでいた

もみじが赤く色付いていた
もみじが黄色く色付いていた
もみじが青々と茂っていた

同じ日のことだけど
もみじは
秋の風がフルフル吹くと
赤い葉も
黄色い葉も
青いままの葉も
枝をふうわりと離れ
クルクル舞って

天空の真青の海から
光の粒をちりばめ
ハラハラとこぼれ始めた

しかし
こぼれても
こぼれても変わらず

もみじは赤く色付いていた
もみじは黄色く色付いていた
もみじは青々と茂っていた



【近作】(2008.11.23)

 
草を毟る   

母が退院し
見舞うことも間遠くなった

なんとも久しく
深呼吸をすることを
忘れていた

どうりで息苦しく
胸苦しく
いつもイライラしていた

そんな変化にさえ
気付かなかった

久しぶりに深呼吸をし
深々と息ができるという
ことを思い出した

荒れた庭に出て
草を毟る
庭に出て思い切り
しゃがみ込んで
草を毟る

腰も足も痛くて
立ち上がったとき
よろめいてしまうほどに
痺れてしまう

狭い庭だけれど
ちゃんと土の臭いのする
ちゃんと青臭い根をもった
草がはびこっている

思い切り背伸びをし
がばりと屈み
うんうんと力込め
草を毟る


 
詩人

おじちゃんは詩人かい
子供がいう

そうだとも
よくわかったな

おじちゃんは
大人臭くなくてさ
説教もしないし
パリッともしてやしないし
小遣いもくれない

いつまで経っても
ボロボロ飯粒をこぼすしな
説教なんて
俺にはできやしない
ガラじゃないし

詩人て
子供みたいな人のこと
みんなが変わった人だと
おじちゃんのこというよ

ちっとも大人にならないよな
第一高所恐怖症だし
勿論金もないし
オンナにはもてないし
折り紙つきの変人だよな

それでやっぱり
おじちゃんは詩人かい
なんだか
みすぼらしいからと
みんながいうよ
それに
結構トシなんだろ



【近作】(2008.11.19)

 
冬将軍

冬将軍来たる
かのナポレオンを打ち負かした
冬の親父の荒々しさ
骨身にとおる寒さ
骨身を砕く痛さ

ゴウゴウと、ビュウビュウと
冬将軍は物々しく
鳴りもの入りでやって来る

ペ−スメーカーを入れた
家にも
足の手術をした
家にも
老婆が今にも死にかかっているという
家にも

赤ん坊が生まれた
家にも
勲章をもらった
家にも

古ぼけたガラス戸を
ガタガタ鳴らし
磨き込まれたビルの大理石のテラスに
飛沫の泡を吹き流し
三百メートルもある客船を
葉っぱのように揺らし
冬将軍は子供のように騒々しい

ペースメーカーを入れようとも
足の手術をしようとも
死にかかっている老婆でも
生まれたばかりの赤ん坊でさえも
勿論、勲章をもらった爺さんも
みんなケイレイをしなければ
ならぬと銃剣を突き付ける

ゴウゴウと、ビュウビュウと
冬将軍は実に物々しく
鳴りもの入りでやって来る



【近作】(2008.11.14)

 


楽しい笛を吹きたい
簡単な音で
優しいメロディーで

気持ちがすっかり安心し
みんなが笑顔になり
みんなが輪になり
みんなが喜び
みんなが懐かしく
みんなが歌い出し
みんなが踊り出すような

さざ波の音のような
新しい潮の香のような
青空に舞う鳥の声のような
海原に漂う白い鳥のような
はるかな故郷の思い出のような
遠い日の思い出のような
山々の頂のような
一枚の花片のような

そんな簡単な音色の
そんな高く低い音色の
そんなあたたかく優しい調べの
楽しい笛を吹きたい


 
点滴

宙空にぶら下げられたチューブから
透明の液体が落ちてくる

ポトン、ポトン、ポトン
トポン、トポン、トポン
ポツン、ポツン、ポツン

宙空にぶら下げられたチューブから
二メートルの管が下がり
腕に鋭く刺された針をくぐり
透明の液体が落ちてくる

ポトン、ポトン、ポトン
トポン、トポン、トポン
ポツン、ポツン、ポツン

輸液ともいうらしいそれは
実に正確に時を刻み
実に正確な量を一粒の滴にして
透明な真水のような液体を
痩せた腕に送り込む

ポトン、ポトン、ポトン
トポン、トポン、トポン
ポツン、ポツン、ポツン

深夜の病棟に
一粒の滴は十分な音をたて
あまりにも十分な音をたて
寝静まっているらしい病棟が
大きく寝返りをうち
大きく歯ぎしりし
大きな呻きをあげる

ポトン、ポトン、ポトン
トポン、トポン、トポン
ポツン、ポツン、ポツン

消灯時間をとうに過ぎた病棟中が
あちらこちらでひそひそ話しを始め
あちらこちらで舌打ちをし始め
あちらこちらで目がらんらんと光り始め
あちらこちらで天井がきしむ音がする

ポトン、ポトン、ポトン
トポン、トポン、トポン
ポツン、ポツン、ポツン

実に正確に時を刻み
実に正確な量を一粒の滴にして
深夜の薄闇の中
宙空にぶら下げられたチューブから
実に寸毫も違わず
実に実に懸命に
透明な液体を痩せた腕に送り込む



【近作】(2008.11.13)

 
永遠

永遠の愛
永遠の微笑
永遠の真理
永遠の生命

永遠とは

永遠の友
永遠の美女
永遠の思い出
永遠の誓い
永遠の契り
永遠の旅
永遠の眠り

永遠とは

永遠の闇
永遠の謎
永遠の光
永遠の輝き
永遠の時間

永遠とは



【近作】(2008.11.7)

 
ジャズシンガー

すっかり酩酊した
ジャズシンガーは
みずすましのように蛇行しながら
車と車の間を巧みにすり抜け
交差点を渡っていく

三ナンバーの車も
バスもトラックも警笛を鳴らし
ジャズシンガーの袖や裾を
掠めるようにすり抜け
オメエなんかボンネットに
乗っけるのはゴメンダヨ
と二言、三言卑猥なことばで
怒鳴り付け
車輪を軋らせ
ブレーキもかけずに過ぎてゆく

すっかり酩酊した
ジャズシンガーは
肥え太ったやつらめ
どうだい度胸はないのかい
ほんの十メートルぐらい
跳ね飛ばしてみる勇気なぞ
どいつもこいつも
持ち合わせてないのかい
どうだい
この真っ赤な血が騒いでるんだ
ニューオリンズ仕込みの
正真正銘のお兄さんの血いだ
欲しくばくれてやろうじゃないか

すっかり酩酊した
ジャズシンガーは
交差点の真ん中に仰向けに
寝ころんだ

パトカーや
救急車や長距離トラックが
警笛を鳴らし
マイクを鳴らし
ジャズシンガーの耳元や指先を
すり抜けて止まり
オメエなんかの血で汚されて
タマルカヨ
サッサトドキヤガレ
と怒鳴り付け
ピストルをもった警察官が
下りてきた

すっかり酩酊した
ジャズシンガーは
来たなウジ虫ども望むところだ
撃て、撃ちやがれ
心の臓を撃ち抜きやがれ
土手っ腹に鉛の玉を
ぶち込みやがれ
さあやってみろ
と西部劇の役者みたいに
みえをきる

すっかり酩酊した
ジャズシンガーは
ちきしょうクソッタレ
肥え太ったやつらめ
俺はちっとも酔ってなんかいないぞ
俺はちっとも
狂ってなんかいないぞ
俺はちっとも
怖くなんかないんだぞと
三ナンバーの車も
バスもトラックも
パトカーや
救急車や長距離トラックも
誰一人いなくなった交差点で
ジミーヘンドリックス
のようにサイケデリック
に叫んでいる



【近作】(2008.11.3)

 
こんにちは

赤いランドセルの子が
こんにちはという
黒いランドセルの子が
こんにちはという

それはいつの頃のことだったか

しかし
知らない人に声をかけてはいけない
知らない人から声をかけられたら
急いで逃げなさい
知らない人から声をかけられたら
どこでもいいから知っている家に
駆け込みなさい

今ではこうだという

赤いランドセルの子も
黒いランドセルの子も
一緒に歩きなさい
まわりに気を付けるのよ
車に注意するのよ

それは今でも同じことだけど

しかし
知らない人には気を付けるのよ
知らない人には必ず注意をするのよ
親し気な人には気を付けるのよ
親し気な人には特に注意をするのよ

今ではこうもいうらしい

赤いランドセルの子が
こんにちはという
黒いランドセルの子が
こんにちはという

それはいつの頃のことだったか

しかし
怪しい人には気を付けるのよ
怪しい人には注意をするのよ
まわりのみんなにも気を付けるのよ
車にはいつも注意をするのよ
車には前からも後ろからも
いつもしっかり注意をするのよ

これはいったいなにごとか

きっと、わたしたち大人がいけないのだ
きっと、わたしたち大人が招いたことだ

ああ、これはいったいなにごとか

きっと、わたしたち大人が作り出したのだ
きっと、わたしたち大人が信じられないのだ
きっと、わたしたち大人が恐ろしいのだ

赤いランドセルの子が
こんにちはという
黒いランドセルの子が
こんにちはという

ああ、それはいったい
いつの頃のことだったろうか



【近作】(2008.11.2)

 
開かずの踏切

右からの電車が横切り
遮断機の向こうに
踏切を渡ろうとする
赤いランドセルが見える
少女は楽し気に頬をふくらませ
なにやら縦笛のようなものを
誇らし気に握っている

左からの電車がのろのろと出る
遮断機の向こうに
踏切を渡ろうとする
青年が見える
彼は新聞のページをめくりかけたまま
どこか気の弱そうな
神経質そうな眉を寄せ
警報機をじっと見上げる

右からの電車が重い音で横切り
遮断機の向こうに
踏切を渡ろうとする
母親が見える
彼女は乳母車の子に笑みを投げ
もう少しだからね
とでもいうように口をすぼめる

左からの電車が矢のように横切り
遮断機の向こうに
踏切を渡ろうとする
腰を二つに折った老人が見える
老人の顔は地面に向けられているから
しかとは見えないが
ナンマイダという呪文を
何十回と唱えているのが知れる

右からの電車がガタガタと横切り
遮断機の向こうに
踏切を渡ろうとする
少年が見える
少年はいい加減にしないかよう
というサインを
こちら側の仲間に送り
三塁コーチが走者を進めるときのように
両手をグルグル回した

左からの電車が当然のように横切り
遮断機の向こうに
踏切を渡ろうとする
自転車の男が見える
男はいつなんどきでも
目の前の扉が開かれたら
猛獣のようにダッシュするのだと
ペダルを十回も二十回も踏みしめ
ハンドルを握る手は
じっとり汗ばんでいる

右からの電車が警笛をならして横切り
左からの電車が急停車をしたかと思うと
何事もなかったように横切った

遮断機の向こうから
踏切を渡ろうとする
少女や、青年や、母親や、老人や、
少年や、男や、自動車や、サラリーマンたちは
だんだんと俯き加減になり
わずか五メートルの踏切を渡るために
カン、カン、カン、カン、カンと
いつまでも鳴り止まない警報機の音を
ドン、ドン、ドン、ドン、ドンと
足を踏み鳴らしながら
呆けたように聞いている



【近作】(2008.11.1)

  
 十一月

十一月の声を聞くと
いつも安堵する
寒がきっちりしまり
空が高い

なにより十一月は
紅葉の朱
青一色の空を
紅葉が鮮やかな文様で
みずみずしく
華やかに染めあげる
ほどよく色づき
繊細に開いた葉のかたち
枝々の伸び
鈍色の伽藍の屋根

十一月は
薄の群れ
山頂から麓に下れば
あたり一面に銀狐がそよぐ
銀狐が手前に招こうとする
ほんとうに招かれ
峰の反対側に
歩いていったりもする

十一月は
虫の声
古都の礎石に佇めば
千年、二千年
鳴き続けてきた虫たちが
一夜の宴を
繰り広げるために
あちらからこちらから
ひょいと扉を開け
やってくる
それは実に
それは実に妙なる
シンフォニー

十一月は
熟柿の実
葉を落としかけた枝に
二つ、五つ、七つ
熟柿が輝る
実の一つ一つには
陽光がたっぷり潜り込み
とてもぬくぬくと
嬉し気に
楽し気に笑っている

十一月は
古びた農家の縁先
すっかり年老いた猫が
昼寝をしている
蠅が白髪の髭のまわりを
くるくる飛び交っても
大きなあくびを
一つするだけ
たまには
ピクリと前足の爪先を
動かしたりする

十一月は
一番星
そろそろシリウスや
リゲルが顔を見せる
もちろんベガやアルタイルも
健在だから
指さしてみるといい
夜空はほら
星達の賑やかなおしゃべりで
交通整理が必要なほど
賑わっている

十一月になると
なにがなしに
嬉しくなる
空は高いけれど
とても身近に下りてくるし
柿の葉はまばらになるけれど
もう新芽の支度で忙しい

十一月は
見えないところで
命と命が
せっせせっせと
引き継ぎに忙しい

十一月には
せっせせっせと
なにかが生まれ出ようとする
気配がいっぱい詰まっている



【近作】(2008.10.31)

 
楽しい笛

大人が踊り
子供が踊り
猫たちも踊り出す
そんな笛が吹きたい

笑って、笑って
転げまわって笑うなんて
きっとわたしの台詞には
あるわけがないと
いうでしょう

みんな
楽しい舞台が好きなんです
みんな
涙を流すほど
笑い合いたいのです

今のわたしには
まだ笛など吹けませんが
せっかく始めるのです

笑って、笑って
転げまわって笑うぐらいの
楽しい笛が
吹きたいのです

お菓子のうた
動物のうた
山や川やトンボのうた
太陽や野原や牛たちのうた

わたしは変わるのです
笛がわたしを誘うのです

楽しい舞台へ
ひっくりかえるぐらい楽しい
舞台へ

そんな楽しい
笛が吹きたいのです



【近作】(2008.10.30)

 
十万回の生死

人は十万回生まれ変わるという
説がある

三百年おきに十万回生まれ変わる
としたら
三千万年を要する
いや、三千万年しか要しない

十万回生まれ変わる
ということからして不確かな
話であるが

一回きりでしかない
ということにも
頷けないものがある

一回きりでしかないとしたら
どうしてこう
不器用な生き方をしたりするのか

生まれてすぐに命を落としたり
疫病にかかったり
誤爆で手足を吹き飛ばされたり
なぜ餓死したりするのか

と思えば
七色の籠の中で育てられ
颯爽とパリの街を闊歩し
晩餐会で
優雅にシャンパンを傾けたりする

あるいは
野良犬に生まれたり
蝸牛に生まれたり
ペンペン草に生まれたりもする

これはなぜだ
どういう仕組みなのだ

われわれは
いったいどこから来て
どこへ去るのか
なんのために来て
どのように果てるのか

こんなことを考えること事態
そろそろ出口の方が近くなった
せいだとの説もあるが

このことを
生まれたときから考えていた
生まれたときから
いつも同じことばかり考えていた

ひょっとしたら
一刻、一刻に
生死があるのかもしれないと
真剣に考えていたときもあった

結局、十万回という説も
ただ一回きりという説も
そのまま、きっちり正しいのだと思う

今与えられている生の中で
考えられ得る限りの叡智をもって
考察したにしろ
この今の一回の生を
過ぎていかねばならないことは
疑いようもない事実であるのだから


 
生きているから

何者かに追われ
危機一髪のところで逃げおおせた
という瞬間に目が醒める

よくあることで
そんなときに限って
たいてい頭が混乱している
だから
また朝の野郎がきやがった
などと悪態をついてしまう

こんな鈍とした朝は
恨みの一つ、二つは言いたいもので
なんで今日は月曜日なんだ
などと当たりちらしてしまう

講演会で聞いたり
本を読んで感服したり
友人に励まされ
「生かされてるんだよ」
と心から納得していてさえ
こうなのだ

普通に歩ける
普通に話ができる
普通に食べられる
これがどんなに奇跡的な
ことであるのかわかっていながら
すっぽり
中東や東南アジアの国々の
ことなどが
抜け落ちてしまっている

講演会で聞いたり
本を読んで感服したり
友人に励まされ
「生きているから辛いんだよ」
と心から納得し
他にも伝えたりしているのに
こうなのだ

であるのに
「蝋燭の火を消しましょうか」
というサインでも
察知しようものなら
ナンマイダ、ナンマイダを
百万遍でも唱えたりする

手や足の一、二本
へし折ってもらっても構わないから
などという
交換条件を出したりする

あまつさえ
なんというツキのなさだと
四六時中頭の中は
蒼黒い思いでいっぱいだ

なんとか歩ける
なんとか話ができる
なんとか食べられる
これがどんなに奇跡的な
ことであるのかわかっており

講演会で聞いたり
本を読んで感服したり
友人に励まされ
「生きているからいろいろあるんだよ」
と心から納得している
筈であるというのに



【近作】(2008.10.29)

 
泣きたいときに

泣きたい夜もある
そんなときは
泣けばいい
なに憚ることなく
素直に泣けばいい

泣きたい旅もある
道程の辛さに
待ち受けている苦しさに
足が動こうとしない

泣きたい逢瀬もある
肩を抱き
ものも言わず
じっと目と目を合わせる

泣きたい歌もある
喉元まであふれ出てくる
熱く苦いものを
ウィスキーの熱で
思いっきり流したい

およそ、いつのときも
うまくいかない話や
うまくいかない仕事や
うまくいかない恋など
ばかりで

泣くしかないときは
泣けばいい
泣いて、泣いて
泣くだけ泣けば
思わず、笑えてきたりする

笑い過ぎると
涙がこぼれるように
雨の向こうには
決まって青空がある

泣きたい夜もある
泣きたい恋もある
そんなときは
なに憚ることなく
泣きたいだけ
泣けばいい


 
美しいうた

美しい夢をみた
暁け方のまどろみであった

しかし、なんの夢だったか
どんな美しい夢だったか
青い色であったか
白い色であったか
光のようであったか

何に感じたのだったか
歌だったか、言葉だったか
山の形だったか、水の色だったか

しかし、実に美しい夢だった
美しい
とはげしく思ったところで
目が醒めてしまった

今も胸の動悸激しく
美しい夢をみた
という思いは去らない
もっとも、とうから
夢に理屈など
ないのかもしれない


 
失っている

失っているものはたいしてない
筈であるのに
確かになにかを失っている
そんな気がする

お金でもなければ立場でもない
そんなものはとうに
持ち合わせていないのだから

時間でもなければ健康でもない
それらは 
神様や仏様に預けているのだから

神様や、仏様は
始めもなく終わりもない
といわれるのであるが

でも、やはりなにかを失っている
そんな気がする

たとえば
一本の蝋燭が
静かに燃え退がるという

燃え退がった蝋燭の
燃えてしまったあたりの形は
もう失ってしまったのだ
と勘定するのだろうか

蝋燭の一本の形は
どんなに燃え退がろうとも
確かに、いつもありありと
そこにあるというのに

始めもなく終わりもない
全ての全てを内包する
といわれる
神様や、仏様自身は

蝋燭の一本を
どのように燃やすと
いうのだろうか



【近作】(2008.10.23)

 
永遠について

だれもいない縁側にランドセルを
放り出すと
麦笛をぴいぴい鳴らしながら
ま新しい理科図鑑をかかえて
庭のハシゴをのぼった

のぼり詰めれば二階の屋根ほどの
高さにもなるハシゴの
中段あたりに腰を落とすと
新しいインクの匂いのする図鑑の
色刷りのページを
次々に繰っていった

ミトコンドリア
ゾウリムシ
ミドリムシの鞭毛のキラキラ 
主根、側根、気孔の直列
つのとんぼ、はさみむし
おおかみきりの変身

すっかり有頂天になった
ぼくの耳の傍には
屋根を越えて
古生代から根付いてきたという
シダがハタハタ風に靡いていたが

〈地球の命は百億年〉
〈地球の命は百億年〉

という声が
シダがハタハタ鳴るたびに聞こえ
それは
はっきりと
彼らが歌っているのだと知れた

彼らの葉脈が
彼らのハタめきが

〈地球の命は百億年〉
〈地球の命は百億年〉

と歌いながら
ぼくに囁きかける

と、蒼く光り始めたシダの葉たちの
真中あたりにあって
ぼくはハシゴもろとも
コマのように回り出した

グルグルと、クルクルと
カラカラと、コロコロと
もの凄いスピードであるのか
おそろしくゆったりした
スピードであるのかわからないまま
カタカタと、キュルキュルと
シュルシュルと、ゴトゴトと
回り始めたのだ

腰を抜かさんばかりのぼくは
思わず必死に手を伸ばし
なにものかを掴もうと
父や母の
名を呼んだ

〈地球の命は百億年〉
〈地球の命は百億年〉

空が斜めになったり
地面が後ろになったり
ハシゴがみしみしと揺れ
なにかの渦巻きの中に放り出され
ぼくは、いっそう
父や母の名をしきりに呼び
なにものかを必死に掴もうと
するのだが

ぼくの指は
新しいインクの匂いのする図鑑の
ページをしっかりと開いたまま
シダのハタめきが
密やかに
激しい熱情を込めたことばで歌う声を
大音量のスピーカーででも
聞くように
まるで慎ましやかに
背筋をすっと伸ばした姿勢のままに
ただ聞いているしかなかった

〈地球の命は百億年〉
〈地球の命は百億年〉

これを永遠というのか
これでは永遠とはいえないのか
もう、激しく聞きたくて
父や母の
名をしきりに呼んだ

これを永遠というのか
これでは永遠とはいえないのか
もう、激しく真摯な声を聞きたくて
ぼくは、ハシゴの中段を
頑是なく
麦笛をぴいぴい鳴らしながら
ミドリムシの鞭毛のキラキラのように
どんどんどんと揺らし続けた



【近作】(2008.10.22)

 
天象

荒々しい風が吹きすさぶという
冥界や天界を渡ってきたのであろう
一個の星 
いや、一個の塊の
風雪に耐えてきた磨崖仏のような
表情をたたえた石が
落ちてくる

疲れたのだ
もう、ようやく約束の
長い旅に終わりを告げるのだ
もう、ようやく自らが飛び込んだ
激しい闘いのくびきから
解き放たれるのだ

ガス雲などという
激しい思春期を過ごし
数え切れないほどの星々を束ね
はなばなしく
あたり中の
星団を率いていたこともあった

考え得る限り凶暴な
時空という堅固な砦を構え
血も涙もない
どこまでも冷酷無比な
どこまでも黒々とした
燃え滾るような野望を抱いていた

三十億年もの間
一瞬として眠る間もなく
三十億年もの間
一瞬として振り向くこともなく
三十億年もの間
一瞬として飽くこともなく

その疲れは
たとえ、千人の裸婦を侍らせても
たとえ、天上の音楽を雨のように降らせても
固い殻を破ることはおろか
ひび割れ一つ
作ることさえできなかった

硬直した
鉄壁の砦には
一匹の蟻
一滴の露
一条の光の
なに一つ入り込む隙なく
凍て付いてしまった

しかし
超新星爆発などという
ビッグバンにも比類する
理不尽な破壊が待っていた
圧倒的に
強力な
完璧なまでに
冷徹な
しっぺ返しが待っていた

砦を失い
全てを失い
一個の星となり 
いや、一個の石ころとなり
命運の尽きた果てに戻るという
懐かしいふるさとの
大気圏に突入し
骨灰と帰す
その間を待っている

落魄の果て
いつの間にか
いや、いっときの間に
磨崖仏のように顔をつぶされ
照れ笑いだけを浮かべ
ひたすら
大気圏に突入する
そのときを待っている



【近作】(2008.10.19)

 
オカリナのうた

雨があがって
おもいっきり高い空
それは青

オカリナのうた
涼やかに流れ
晴れやかに流れ

雨があがって
おもいっきり高い空
それは白

オカリナのうた
軽やかに流れ
はてしない遠くに流れ

雨があがって
おもいっきり高い空
それは紫

オカリナのうた
ときの彼方に
たとえようもなく
りんりんと
かなしいほどに
脈々と
歌うたうように
切々と流れ



【近作】(2008.9.5)

 
コスモスのうた

美術館を
素足で歩くひとよ
青磁のようなタイルの上を
素足で歩くひとよ

やわらかでいて
たおやかでいて
意志的でいて
きっととてつもなく強い風にも
とてつもなく強い雨にも
さりげなく
そよぐひとよ

奇跡のように
さりげなく
歩くひとよ



 
宇宙論

まぶたを閉じると
まっすぐに倒れる棒が見える
水の上で倒れるときもあれば
屋根の上からポトリと落ちるときもある

君が詩人であるなら
あっさりとまぶたを閉じてみるがよい
一本の棒の中に
みどり色をした
足の生えた
髪の毛の生えた
翼の生えた
およそ実体のないものたちがいて
煙のようにモヤモヤと倒れて
歌い出すのだ 

まぶたを閉じれば
決まって
まっすぐに倒れる棒が見える

約定のときに
なんと素裸で
なんとも豊かな乳房をもち
なんとも美しい唇をもち
なんとも艶やかな声をもち
おんなのような
およそ心を失ったようなものたちがいて
ときがくれば
ドライアイスのように
奔流のように流れ出すのだ

まぶたを閉じると
きっと
まっすぐに倒れる棒が見える



【近作】(2008.8.31)

  
山は青いか

山は青いか
太郎が見上げている

山は青いか
次郎が見上げている

山は青いか
三郎が見上げている

山は本当に青いか



 
記  憶

書けないとなると
一字すら書けないものだ

ぼんやりと呆けながら
ときには
銀河系の裏側まで
ぶらぶら
彷徨ったものだ

そこで
二十四歳のとき死んだ俺の
ふやけた目玉を
くるくる回したりした

しかし、俺は
本当は
三百年もとまらない
クシャミを止めるため
目の前の足の裏をくすぐって
ほしかったのだ



(1979年度福岡市民文芸第15号掲載)

  
無  間

このつかの間の時間に
私は多くのことを
やりおおせねばならない

焼き場で
ただひとにぎりの骨灰となって
かえってくる地球の
ふしぶしのささめきを
疲れた
この疑似楕円軌道から
ゆるやかにとき放し
せめてなま温かい
時の笹鳴きの彼方に
後ろ向きに
投げ入れてやろうとする

かつて
糜爛した青臭い
食欲や性欲をみたしたという
蜥蜴や猿や
鱗木(ウロコギ)や神などという
卑小なものたちの
ささやかな老後の夢は
たったこれだけの
一片の死亡届で
ピンポン玉のように
弾けとんでしまった
私は
カネテ病気療養中ノトコロヲ‥
などと書き送るつもりはない
なぐさめにもなりはしない

まん幕の張りめぐらされた
うす暗い部屋のかたすみで
冷えびえとかじかんだ
私のミイラをなでながら
死に絶えてしまった
惑星たちの覚え書きを
あてのないタイムカプセルに
乗せようとする
(西暦何年などという
他愛のない奥付けを
記そうか)
それにしても
今はいまからあとなのか

どこへ歩いていったか
などという
しらじらしい題目は
そこの十字路をかってに
ころがっていくがいい
今日のしがらみに
まつわりとどまろうとする
みずの流れのように
まつわりつくことのできないことに
まつわりとどまろうとする
もろもろのミイラたちよ
仏たちよ
ガラスのようなものたちよ

足がない!
手がない!
口がない!
耳がない!
吹きとばそうとする亡者さえもない
なんという形象だ
底も、天井も
闇も、星たちも、
時のながれも
三十億光年の彼方に向けて
すでに
茫々となだれ果ててしまった

私はいま
刈られたするどい
手首の痛みに耐えながら
このおびただしい堆積物の中から
乱雑に散らされた過去帳の
ひとつひとつをめくりだそうとする
はるかなゆかしい
心臓の所有者であったものたちへ
うごめく
ひかりのような実体であった
ものたちへ
いま私は
ひとり心せきながら
いち枚の乾いたはなびらを
そらにながそうとする
索 引


無間

記憶

山は青いか

宇宙論

コスモスのうた

オカリナのうた

天象

永遠について

失っている

美しいうた

泣きたいときに

生きているから

十万回の生死

楽しい笛

十一月

開かずの踏切

こんにちは

ジャズシンガー

永遠

点滴



冬将軍

詩人

草を毟る

もみじ

お菓子の町

クリスマス

元旦に

予感

ハーモニカが吹けない

心を透かし見れば

夢一夜

「月とつばめ」ほかに寄す

メジロ

合格

呪文

表現

宴だ

水仙

歌いたければ

春も来い

花の宴

花の絨毯

飛行機

少年A

クローバ


インフルエンザ

風翻る

五月の朝

パソコンは

五月の雨

眼鏡

癇癪

五月と雨

応援歌

主張などなく

光あれ

明日はいいことがある

星降る

紫陽花

ありがとう

泣いてどうなる

光さす

インフルエンザ考

パソコン考

木漏れ日

飛行機雲

世界のどこかで



朝日

どうにでもなれ

労働考

格差

法悦

柿の木

青い鳥

南風

確率

万華鏡

プラス思考

低気圧停滞

豪雨襲来

光舞う

定年

さはさりながら

十七歳宣言

うつろい

怒り



光あれば

正義

挽歌

九月の雨

解き放つ

自由に

名月

羅針盤

タイムカプセル

いのち

ビッグバン

ブラックホール

海の座標

名人

系図

占い

少女

母の記憶

町の芸術家

内科医院

恐竜伝(一)

恐竜伝(二)

素数

青春



広場

迷子

幸福者

自分


おかしいもの

嵯峨野


竹の道



時化の海

時計

深呼吸

海溝

楕円軌道



般若心経

無有恐怖












































































































































































































































































































































































































































































































































































































































 

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